第5話 嘘

 酒を両手に抱えさせられた状態で、駆け出した桃華さんを追う。必死に走ったが、追い抜いた瞬間、桃華さん家の家の扉の前、開けようとしたら鍵がかかっていた。何故だと疑問符が飛ぶ。


 行きは鍵などかけていなかったはず。そして「ごめん、退いてね」と言われ後ろに下がる。桃華さんが鍵を開けると、俺を先に入れることなく、自分が先に玄関口へと入って言った。


「勝ち!」

「えっ? 嘘、そりゃないよ桃華さん!?」

「うそうそ!」そう言いながら「ありがとうご苦労様」と酒を片方持ちキッチンへと行く。すると陽子ちゃんと燕ちゃんがテレビを見ながら、怠そうに「どこ行ってたの? 待ちくたびれて、もうたこ焼きもないよ? それにあの二人も2階から降りてこないし。何やってんだか?」と燕ちゃん。


 一瞬、桃華さんが悪そうな顔つきになった。そして・・・。


「あの二人もいちゃついてんじゃいの?ねぇ?要くん?」

「ああだめだめだめだめ!!」


 慌てた様子で先ほどお尻を触ったことを言われると思い、俺は焦って声を挙げた。すると燕ちゃんたちが首をかしげて、「何?桃華さん、増山くんにイヤラシイことでもされたの?」と問いただす。


「ああ!!桃華さーーーーん?」

「あのね?さっきさぁ?抱き寄せられて、お尻触られちゃった!?」


 終わった。俺の青春が終わった。そう感じた瞬間だった。


「ええ? エロいことされたの? 増山くんイヤラシイ!」

「増山くんも意外に年上好き?意外だなぁ?エロ男!」


燕ちゃんと陽子ちゃんが容赦なく俺に鋭い視線を送り言い放つ。


「ちっ、違う! そんなつもりじゃなくて、助けたんだってば! 腕を引き寄せて、自転車に当たらないように!」

「でも、私を抱いたわよね?要くん?」

「ああああ!あの……。桃華さん? それは、言い過ぎでしょ? 抱いてないし……」

「抱き寄せてお尻触った事実は、どうしてくれるの?」

「だから、それは誤解……なんだってば……」

「誤解……どう誤解なのか……説明してくれないと……」


 そんなやり取りを騒がしくしていると、2階からかずみちゃんと俊平が気になったのか、降りてきた。


「どうしたんだよ?騒がしいなぁ!?」

「聞いてよ、俊平ちゃん、私要くんにお尻触られたんよ?」

「えっ? お前!要! 謝ったのか? どうも今日は鼻の下が伸びてるって、かずみちゃんとも話してんだよ。何してんだよ。かずみちゃんの姉貴に!」

「俊平まで……ちがう……誤解なんだって!」

「カナブン。いいから頭下げろ。そして今日は帰ろう!」


 納得行かなかったが、俺は深々と頭を下げると、桃華さんが、やれやれと言う表情を浮かべ納得してくれた。そして俊平と玄関口まで行くと、後ろにチラッと少しだけ、桃華さんのふざけて舌を出してオチョける顔が目に入った。


 それを見た瞬間。やはり馬鹿にされてたんだぁ!!!俺は、結局そんな役回りだ!と首を垂れた。その姿に俊平は、ポンと肩を叩き、かずみちゃん家を後にした。


 帰り際、俊平がずっと2階にいたことが気にかかり尋ねた。


「お前ら、何やってたの?エロいことでもしようとしてたんじゃねーだろうな?」


その言葉に、真面目な顔つきで、俊平は、「あぁ!そうだよ!お前たちの件がなければ、最後まで行ってたのにさぁ?ってか、もっとうまくやれよ!お前も!」と、何故か責められてしまった。もう誰も信用できない。そんな思いが俺の中に駆け巡った日だった。

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