第24話 銃弾



 *


 奇妙な少年だった。


 奴隷が手にしていた刀を拾い上げて武器にすればよいものを、なぜかそうしない。ようやく手に取った得物は、あろうことか刀の鞘のみ。


(日本刀を使えぬ理由でもあるのか)


 万晴からは、凪が大阪の貧困街で育ったと聞いていた。


 貧乏町人が刀の握り方を知らぬのは分かる。だが、だからと言って、目の前にある強力な武器には目もくれず、拳で戦うなどとは、いかに卑しい町民ですら考えつかない。


「うっ」


 鞘と拳だけでは防ぎきれぬ刃が、凪の背中をかすめる。


 流血してなお、凪の長身はよろめくどころか、闘志をみなぎらせていた。それが、小狂を少しずつ焦らせてゆく。


去時化さるしげを引き留めておくべきだった)


 万晴に並び残虐、かつ戦いにも慣れた同胞を、駿河へ行かせてしまったことを小狂は後悔した。


「あれを出せ」


 小狂は配下の浪人に命じる。浪人の手にある包みから取り出したのは、すでに装填の終わった鉄砲であった。


「小僧!」


 小狂が喝声を上げた。


 その声につられた凪の視線が一致する。


 動きの鈍った凪の巨体めがけて、鉄砲の口が火を噴いた。


 *

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