第13話 万晴
*
ぞくりと胸が震えた。
新しい心臓を迎え入れ、その強さを取り込んだ自らの心臓が、胸騒ぎをあげている。
動悸、動悸、動悸———。
それはまさしく、貧弱であった頃の万晴を苦しめ続けた、緊迫の鼓動だ。新しく生まれ変わった心臓が、万晴の身に迫る危機を察して、警鐘を鳴らしている。
———否、抵抗しているのだ。
万晴に取り込まれた弟の心臓が、万晴のものになるまいと足掻いているのだ。この血が、本来の体へと帰りたがっているのが分かった。
「凪が、生きてる……」
汗ばみ、呟いた。
これまで、己の糧とした他人の体が、万晴に異常をきたすことはなかった。
———凪の心臓だけだ。万晴に従わず、今なお体を苛むのは。
その血の抵抗をもってして、万晴は実感する。
どのような方法でよみがえったかは想像しがたいが、あの強靭な気配が、一歩、また一歩と万晴に近づいてくる胸騒ぎがした。
「っ……」
さわやかな少年の顔が、いびつに引きつる。
凪は次こそ、情け容赦なく自分を殺すだろう。取るに足らない弟の分際で、この兄に全力で向かってくるだろう。
(望むところだ……向かってこい)
無礼で、卑しい身分の弟に向けて、汗の伝う頬を吊り上げる。
父も、母も、弟も一度は殺してやった。
早く来い。今度こそ、お前をあの世へ叩き落としてやる。
*
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