第28話 犯罪者の結末
ソフィーたちが鉱石の発掘現場に着くと、茶色で岩肌のような鱗を持つアースドラゴンがいびきをかきながら寝ていた。ソフィーたちが近寄るとのっそりと起き上がり、黒い瞳でにらめつけ「ぐるるるる」とこちらを威嚇するようなうなり声をあげる。
「あの子、大分怒っていない?」
「でもすぐに襲い掛かってこないから何か事情があるのかも」
ソフィーが市場で買った燻製肉を取り出し、ドラゴンに差し出してみる。くんくんと臭いを嗅いだドラゴンはパクりと大きな口を開けたので、肉を放り込む。一飲みしたドラゴンは嬉しそうに声を上げて、ソフィーに顔を近づける。
「まだ欲しいのかな」
ソフィーが瓶に入っていた燻製肉をドラゴンに一つ一つあげていく様子を見て、クラインらは公園にいる鳩に餌やりしている爺さんの姿がちらつく。いつの間にやら空っぽになってしまった瓶をみて、満足したのか再びドラゴンはぐーすかと寝てしまう。
「餌付けされているだけじゃないか、これ」
「詐欺師の言っていることが正しいってこと?」
「100%の嘘より、真実を織り交ぜたほうがわかりにくいってのは詐欺師の常套手段だ。今のところ、嘘だとわかっているのは食糧難に陥るほどの大量の食料はいらないことだな」
「それなら余った分は?」
「どこかに売りさばいたと考えるのが自然だろうな、下手すると、奪った食料を高値で街の住民に売っているかもしれん」
「うわ、あくどい……」
「しかも武器も売ればそれなりの金額で売れるはずですわ」
「……となると問題はどうしてドラゴンがここに住み着いたのかだな」
「だったら手分けしてこの辺を調べようぜ。原因がわかれば、ドラゴンを別の場所に移動させることができるかもしれないからな」
「それなら俺が坑道へと入ろう。親父が炭鉱で働いていたから、ある程度の知識はある。アリスとあともう一人……ソフィー、光魔法で道を照らせるか?」
「できます」
「私とキースさんが外の探索ですわね。まあ、パーティのバランスを考えれば妥当ですわ」
ソフィーはクラインらと一緒に坑道へと入っていき、それを見届けるキースたち。その瞬間、寝ていたはずのドラゴンが暴れ始める。眼の色が血のような赤色に染まり、我を忘れたかのようにキースらに突進してくる。
「なんだ急に!?」
キースらは慌てて突進攻撃を避けるが、すでに坑道へ入っていたソフィーらは出る暇もなく、ドラゴンの突進で生じた落石によって入口がふさがり、生き埋めになってしまう。急いで、救出に向かいたい二人だが、目の前には様子のおかしいドラゴンが殺意を向けて襲い掛かってくる。
「いったい、ここに何があるっていうんだ!?」
鋭い爪で引っ掻こうとするドラゴンの攻撃をかわし続けるキース。何をするにしてもとにかくドラゴンを引き離さないといけないため、彼が囮になることを決め、クレアに援護と隙が出たら魔法で岩を吹き飛ばすよう指示するのであった。
「我が道を照らせ、シャイニングロード!」
ソフィーの光魔法で真っ暗だった坑道も電気がついたかのように照らし出される。中に敵が居れば、すぐに侵入がばれてしまう欠陥魔法だが、アイザックのように忍び込んでいる者がいない限り敵はいないし、居ても非難できる立場ではない。
ここで、待っているのかと思っていたソフィーはクラインらが奥に向かって歩くのを見て、疑問を投げかける。
「ここで待たないの?」
「そこで待っているとまたドラゴンの攻撃で崩れて今度こそ生き埋めになるかもしれん。それなら奥に進んで他の出入り口が無いか探したほうが良いだろう」
「じゃあ、光魔法を使ったのは? キースさんが使う様な火の魔法だとダメ?」
「こういう場所ではガスが発生しやすい。俺たちがガスの臭いと思っているのは臭い付けされたもので、ガス自体に臭いはないから、気づかずにガスがたまっているところに入り込んで引火・爆発というのはありがちな事故だ。光魔法だと着火する恐れが無いからな」
「へ~、そうなんだ」
ソフィーがクラインから、炭鉱や鉱山に関する知識を教えてもらいながら、入り組んだ坑道を進んでいく。コツコツと歩いていくと、クラインが手を伸ばし制止のサインを出す。そっとのぞき込むと、岩でできた人型のゴーレムが岩や砂を運びながら、そこら中を歩いている。
「ロックゴーレムだ。危険な作業をゴーレムで行うのはよくやる光景だが、それにしても数が妙に多い」
「そうなの?」
「ああ。ここまで過密にいるということはそれだけ大きな鉱脈があるか守らなければならない何かがあるというわけだ」
クラインが堂々とロックゴーレムの前に行くと、作業用のゴーレムは彼を無視し、己の作業だけを忠実に守る。だが、それらに紛れた警備用のゴーレムは侵入者である彼を認識した後、ドシドシと音を立てて近づいていく。
「ここまでわかりやすいと楽だな」
ゴーレムの弱点である関節部を狙った斬撃はやすやすと腕や足を切り離していく。あっという間に警備ゴーレムを撃退クラインは岩陰に隠れているソフィーたちに「出てきてもいいぞ」と指示をする。
クラインらがさらに奥に進むと、明らかに坑道には異質な金属の扉と関係者以外立ち入り禁止の札がかけられている。
「坑道内の詰め所……かもしれんな。中に入ってみよう。もしかすると坑道の地図があるかもしれん」
クラインがそっと扉を開けると、大きなモニターに色とりどりのスイッチやパネルがある操作盤が置かれている部屋があった。今でも稼働しているのか大部分のランプが点灯しているのが素人目でもわかる。
「これは一体……スイッチはこれか?」
クラインが赤いスイッチを押して、手元のパネルを手慣れない手つきで操作して、この装置が何なのか調べてみる。カタカタと操作しているうちに起動している装置の名称のがようやく判明する。
「広域魔獣制御装置……? そんなものあるわけ……」
「聞いたことある――!?」
「あるのか!?」
ソフィーは以前、二人に出会う前に出会った帝国の博士のことを話す。そのとき彼らが乗ったロボットに魔獣を操る技術があったと。それを聞いた二人はそのような重要な話が回ってこないのかと頭を抱えていた。
無論、彼らの上司や大臣らは知っているが、混乱を避けるため一部の者にしかその情報を開示していないことがあだとなっていた。
「それなら話は早い。きっとドラゴンが襲い掛かったのもこの装置が原因だろう。だったら、このプログラムを終了させれば……よし、できたぞ!」
クラインが装置をシャットダウンさせると、ランプの光が消えていく。このまま放置すれば、誰かの手によって再起動させられてしまうので、アリスが水魔法で機械をショートさせておいた。
「これでドラゴンが元に戻っていると良いのだが……」
「戻ってみます?」
「そうね。向こうも入口の岩をどかしてくれたかもしれないし」
ソフィーらは来た道を戻っていくと入口からまばゆい光が漏れており、しばらくぶりの新鮮な空気を思いっきり吸い込む。外には、ぜーはーぜーはーと息切れしているキースと座り込んでいるクレア、そんなふたりをよそに寝ているドラゴンの姿があった。
「ドラゴンが急におとなしくなったときに戻りやがって……」
「ああ。それについては後で説明する。今は追手が来ないうちに帰ったほうが良いだろう」
「おい、どういうことだよ。おい!」
キースの言葉を無視し、クラインらは一度アイザックの家に戻り、坑道内であったことを話していく。
「坑道内に制御装置ね……でも機械を修理させられたら意味ないぜ」
「ああ。だから、詐欺師、いや帝国の手の者をおびき寄せて一網打尽にする手を考えないといけない」
「私に策があります」
「……なあ、俺が言うのもあれだが、お前の策、突拍子もないものじゃないよな」
「大丈夫です!」
ドンと胸を張るソフィー。自信満々な様子に皆の視線が一度、クレアに向くが「やってみたら」と言わんばかりにそっぽを向く。こうして、ソフィーの策を聞いた彼らはさっそく準備に取り掛かるのであった。
数日後、アイザックのもとにひょろながい長身の男性と、背丈の低い出っ歯の男性、青髭が目立つ男性の三人組が武器の受け取りにやってくる。彼らは発注した武器を見て、指定の数がそろっていることを確認し、相場より低めの金額を支払うと他の武器には見向きもせず出ていく。
「盗人に武器の良し悪しがわかるまい。のう、テリー」
「ええ。半分は僕の品でしたからね」
見る人が見ればテリーの作ったものとアイザックが作ったものはまるで違うのだが、一般人から見れば、テリーのものでも実用に耐えるものである。そのため、彼らは気づかずに半分は粗悪品にすり替えられた品々を運ぶことになった。
これはソフィーの策が失敗しても被害を最小限に抑えるものである。そして、彼らはドラゴン退治のふりをしないといけないため、鉱山にやってくる。そこにはソフィーたちがすでに岩場の陰から覗いているわけだが、彼女たちが出るつもりは毛頭もない。
なぜなら、そこには目を覚ましたドラゴンが彼らを威嚇しているからだ。すると、リーダー格と思われるひょろがりの男が、ポケットからスイッチらしきものを取り出しそれを押す。
「ドラゴンだろうと帝国産の制御装置のまえじゃあ、形無しだぜ」
「これで食料も武器も奪い放題でヤンス」
「金がたんまりたまるねん」
三人組はニシシシと笑いながら、手に入れた品々をどうやって売るかを考えていると頭上に黒い影がかかる。見上げてみると、ドラゴンが大きな口を開けて今にも彼らを飲み込もうとしているようだ。リーダーの男性がスイッチをカチカチと連打しても、近づくドラゴンを止めることができないでいた。
「こ、こんなときに故障か!?」
ドラゴンがベロリと三人組をなめると、持っていた武器や食料を投げ捨て逃走をはかる。
『三人組は逃げ出した。ドラゴンに回り込まれてしまった』
ドラゴンがいよいよ観念した三人組をつかむと、空高く舞い上がり北の大地へと突き進む。ある程度飛んだ後、彼らは地面に降ろされる。そこには目の前の湖とそれを取り囲むようにある森しかなかった。
「ここどこでヤンスか!?」
「ノースランド中立国だと思うが、どうやって戻るんだよ!糞トカゲ!」
リーダーの男が醜態をつくと、ドラゴンが吠えるのをみてリーダーはすぐさま許してくださいと命乞いする。ドラゴンが森を指さした後、何かを食べる動作をする。
「えっ~と、森に行って何かとって来いってか? なんで、そんな……いえ、なんでもないです」
ドラゴンにジロリとみられたリーダーは子分を連れて森の中へと入っていくのであった。その後、彼らを人里で見かけた情報は一切なかった。
ことの顛末を見たクラインがぽつりと漏らす。
「ドラゴンに全部任せるって策なのか?」
「でも、一番怒って良いのはドラゴンだと思うんです」
「まあ、ドラゴンに連れ去られて行方不明の詐欺師を救出するほどギルドもお人よしじゃないし、それでいいのかもね」
「ああ。これが信頼の足るまっとうな人物ならまだ救出もあったかもしれないがな」
「よし、余計な時間はくったが、馬を走らせれば王都までそんなに時間はかからない。行くぜ、子分ども!」
詐欺にあっていた街の人らにドラゴンのことを伝えて、格安で馬を譲ってもらったキースたちはソフィーとクレアを後ろに乗せて、悪魔騒動以来の王都へと向かうのであった。
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