第21話 迫りゆく陰謀
クレアはマリアから昨晩のことを聞いて「またか」と頭を抱えた。退屈ごとはきらいだが、この半年で厄介ごとに何度も巻き込まれるとマリアが疫病神にも見えてくるが、小等部にいたころは何もなかったことを踏まえると単なる偶然なのがタチが悪い。
厄介ごとに慣れ始めた自分に軽く頭痛を感じながらも、対処方法を考えるも国同士のイザコザを解決する方法など未成年の自分らに思いつくはずもなく、気分を変えるため、外出することにした。
昨日、クラインたちと回れなかった場所も回りたいため、あてもなく迷路のように入り組んだ城下町を歩いていく。うす暗い小道には、ぼろきれのような服をきた薄汚い人たちがジロリと獲物をみるような目つきでこちらを見る。
余計なトラブルを引き起こしたくない二人は見なかったことにしようとしたが、チンピラ風の男性らはこちらにずかずかと近づいてくる。子供が絡まれているにも関わらず、二人の近くを歩いている王都の人間は自分たちも関わりたくないのか見て見ぬふりをしている。
「よう、嬢ちゃん。なにガンつけてんじゃあこりゃあ!」
威勢のいいチンピラがコチラを睨めつけるが、これよりも恐ろしい存在を数々出会ってきた二人は動じることもなく、こちらも負けずとにらめ返す。
ビビらすところかにらめ返され、メンツをつぶされたチンピラが前にいるクレアを殴ろうと大ぶりのパンチを放つが、すでに強化魔法をかけていたクレアにとってはあまりにも遅すぎるパンチなので、カウンターの要領であごをカチあげた。
頭から地面にたたきつけられたチンピラはピヨピヨとのびている。予想外の反撃に出会い、逆切れした別のチンピラは懐から銃を取り出す。気味の悪い笑みを浮かべ、見せびらかすような仕草をした後、「死ね!」と言って自信満々に引き金を引くが、見えない壁に当たり銃弾が跳ね返ってチンピラの手を貫く。
「ぐぎゃぁぁぁぁあ!!」
あまりの激痛にチンピラの男性がうめき声をあげる。残りのチンピラは仲間を呼ぶためかうす暗い小道へと入っていく。クレアが残されたチンピラの手足を地面や建物ごと氷漬けにして、身動きをとれなくする。銃を一般市民が拾うのは危ないため、ソフィーが一時的に預かることにした。
「どうする?」
「もちろん、追いかけるに決まっていますわ」
ソフィーは「うん」と言って、二人はチンピラの追跡を始めた。小道では物乞いのような男性、孤児と思われる顔色の悪い子供らが珍しそうに二人を見ている。走り抜けると、スラム街のようなぼろい小屋が立ち並んでいた。
うつむいて二人を見ている気味の悪い男性らはチンピラと同様に女子二人をいくらで売るのかの算段でもしているのか、ぶつぶつと言っている。
だが、見たところ彼らは食環境が悪いせいかやせ細っており、戦えるような肉付きはしておらず、高ランクの魔法使いや銃の違法所持でもしていない限り、自分らに害を及ぼすことはないだろうと二人は考えた。
そして、スラム街の奥には他の小屋と比べると比較的綺麗に見える建屋があった。窓からこっそりのぞき込むと、先ほどのチンピラが偉そうな上司に何らかの報告をしているようだった。
「アニキ、やべーガキがこっちに来てるんっすよ」
「ああ。よくわかった……てめーらはガキ二人捕まえられない無能ってことがなぁ!」
激昂したチンピラのボスがテーブルを蹴り上げる。怒り狂っているボスを見て、手下のチンピラは互いに抱き合ってプルプルと震えている。ボスが懐から取り出した似顔絵付きの指令所を懐から出す。
指令書には銀髪で青い眼が特徴の女の子、というかそれくらいしか読み取れないほどの絵と捕まえたら並外れた高額報酬を与えると書いてあった。
「生死問わずという緩い条件付きで失敗するほどの無能はいらんで」
コクコクと頷く二人が慌てて、鉄砲玉のように外へと飛び出していこうとすると、透明な壁にでも跳ね返されたかのように二人が壁にぶつかり気絶する。ドアの外には件の子供二人が堂々と待ち構えていた。
「アイスニードル!」
クレアがボスに向けて、得意の攻撃の呪文を放つが、チンピラの一味とはいえボスだけに最小限の動きでそれを躱しながら、ナイフを抜いてクレアに近づいていくだけの技量を持っていた。援護のため、ソフィーがクレアの前にプロテクションを張るやいなや、すぐさまバックステップし、リフレクションの餌食から逃れる。
「この人、強い……」
「ええ。接近戦主体の人が居れば良いのですけど……」
(マリアお姉ちゃんが出てこない……ということは私たちだけでも勝てるはず)
ソフィーの成長のためマリアが出るのはあくまでも命の危機が迫った時だけだ。逆にいえば、策や準備をすれば勝てる相手ともいえる。だからこそ、姉の信頼を裏切らないためにも策を練るのだ。
(銃は役に立たねぇ、パラライズナイフで斬りつけようにもプロテクションが邪魔だ。クソが!)
チンピラのボスは苛立っていた。相手の攻撃は対人戦闘が少ない子供がゆえに比較的単調であり、余裕をもってかわせる。だが、使い勝手が悪いと言われるリフレクションとの組み合わせが厄介だった。接近戦を仕掛けようにも阻まれ、遠距離戦は手下のように返り討ちにされるのがオチだ。
よって両者は互いに決め手に欠け、膠着状態に陥っていた。そんなとき、ソフィーがチンピラから奪った銃をチンピラのボスに向けて、引き金を引いた。初めて引いたせいで、狙いは大きくずれ、誰にも当たらない方向へと銃弾が放たれる。
「へへ、どこに向かって……うぐっ!?」
チンピラのボスの肩に銃弾が後ろから当たる。当然、振り返ってもそこには誰もいない。目をそらした一瞬のスキをついてクレアがアイスニードルを放つが、チンピラのボスは体勢を崩しながらもそれを躱す。
そして、ソフィーが2射目の銃弾を放つ。クレアの攻撃をかわしながらもチンピラのボスがソフィーの銃弾から目をそらさないようにすると、リフレクションによって弾丸の向きが変えられ、自身に向けられている。それも寸でのところでかわしても、リフレクションでさらに軌道を変えられる。
「これが跳弾による狙撃……リフレクションショット!」
それが2発、3発と増えていき、やがて逃げ場を封じられたボスは手足を打ち抜かれる羽目となった。
クレアによってチンピラたちを氷漬けにした後、チンピラのアジトを見渡すと散らかった床に戦闘中にボスが落とした指令書が落ちていた。そこに描かれたのは「だとう」や「きらい」と書かれた文字と饅頭みたいな顔に特徴だけを描いたような似顔絵もどき、遊んで暮らせるような莫大な金額が書かれていた。
「こ、この絵のセンス……私、見覚えありますわ」
「奇遇だね……私もだよ」
似顔絵を見た2人はエルフの森で出会った赤と青の目が痛くなるような機動兵器の胸に描かれたライオンの絵を思い浮かべる。マリアの話を聞いた限りでは帝国の人間に偽装した人間の可能性がまだあったが、この絵のせいでその可能性は限りなく0になったといえよう。
「厄介ごとにまたまたまたまた巻き込まれましたわ……」
「しかも、この絵、私だよね……」
「まあ、銀髪かつ青目の子供となると貴方くらいでしょうね」
王国では青目の人間はそれなりに多く、銀髪の人間は珍しいが、いないことはないといったところだ。だが、女の子供まで絞られると数はそうそういない。うかつに外に出るとチンピラたちに絡まれるのは間違いないだろう。
「それなら、外出するときはお姉ちゃんに交替する」
「まあ、マリアならこの手配書に描かれた人物像とは一致しないから、大丈夫とはいえ……まあ、命を狙われるよりかはマシだと思いますわ」
クレアがそこらの棒切れでチンピラたちの意識を刈り取ったところで、ソフィーはマリアに変身する。そして、ドアを開けると、そこにはスラム街の住人たちが古びた鉄パイプや角材、丸太をもって迎え出た。
「手配書の女を何処へやった!」
「あれは俺たちの獲物だぁ」
「へへ……よくみりゃあ、あの二人も高くうれそうだぁぁ……げへへへ」
獲物を前に舌なめずり、三流の悪役がやりそうなことを二人の前で行う。誰も銃らしきものを持っていないことからもあのボスから戦力としても信用されていないことがわかる。
「こういうのを不愉快というのだな」
「まあ、貴方一人だけでも勝てそうな気もしますが……」
「ふぅ、やれやれ……まずは戦力の違いを認識してもらうところから始めるとするか」
「ゴチャゴチャとうるせぇ!キィィィィィ!!」
鉄パイプを振りかざした物乞いの男性が謎の奇声を上げてマリアに襲い掛かる。マリアは剣を一振りし、鉄パイプを持っていた右腕を躊躇なく切り落とす。斬られた個所から盛大に血が噴き出し、物乞いは言葉にならない声で泣き叫ぶ。
「ヒール」
マリアが止血代わりに断面部のみ回復魔法をかけると、血が止まり、物乞いは一命を救われる。その様子にあっけにとられたスラム街の住人にマリアは言い放つ。
「私の回復魔法は下手なんでな。どんな高名な魔法使いでももう二度と腕がくっつくことはない。もし、私たちに攻撃を仕掛けるつもりなら、手足の一本や二本を失う覚悟はあるだろうな!」
マリアの威圧にスラム街の住人たちがたじろぐ。すでに何人かは武器を手放し、この場から逃げ出したようだ。だが、この人数で押せばあるいはと思っている集団心理を覆すまでに至っていない。
「その覚悟があるのであれば、前へ出てくるがいい!その命ごと狩らせてもらう」
「タカキ、ヤス、トシ!一斉攻撃を仕掛けるぞ!」
スラム街からまだ身なりが整っている人間がどこで手に入れたか分からない、手入れも行き届いていない剣でマリアに4方から襲い掛かろうとする。剣で対処するには万が一というリスクを嫌い、マリアは魔法で応戦することに決める。
「パーティカルレイ!」
球弾から放たれた光の矢は彼らの手足を容赦なく打ち抜き、その場で倒れる。このまま放置すれば、失血多量で倒れるのは誰の目から見ても明白だった。
「次はどいつが犠牲になりたい!お前か、お前か!」
「ひぃぃぃぃい!」
マリアに剣先を向けられた男性らは一目散に逃げ、それに続くかのように他の住人達も蜘蛛の子を散らすかのように逃げ去った。失血死して仇討ちというリスクも犯したくないマリアは止血代わりの回復魔法を行い、その場を去る。
先の騒動を遠巻きで見たのか戦闘に関わっていないスラム街の住人もマリアを見るや否や目をそらす。「私たちは何も見てない。知らない」と言いたげだ。
ここまで恐怖心を抱かれるのは心外だとマリアは思うが、余計な戦闘を避けれるのに越したことはないと考えなおした。先の大通りに出る道には人が大勢集まっていたため、先ほ異なる小道から大通りへと出る。
日はまだ高い。宿でおとなしくするにも時間をつぶす方法は特にない。さて、何をするかと考えると、クレアがマリアにいう。
「せっかくですから、ゆっくりと見て回りません?」
それはソフィーの代わりに戦うことしかできないマリアにとって初めての非戦闘の日常生活だった。
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