第20話 襲撃者
ジリジリと照らす残暑が厳しい日差しが強い中、ソフィーとクレアは2体の災害級討伐に対しての功績が認められたアイアンへの受勲式に参列するため、王都へと向かっていた。レーラントからは遠く離れた地である王都だったが、騎士団が定期的にでも討伐しているのか魔獣の出現はなく、退屈で平穏な旅路となった。
平年以上の暑さに耐えきれず、クレアが魔法で氷を生み出して少しでも涼しくしようとするが、それでもこの暑さは辛い。解けた水もこの日差しの下ではすぐさま乾いてしまうほどだった。魔獣の出現もなく、最初はもの珍しく見ていた風景も今では飽きて、特にすることが無いのも辛さに拍車をかけている。
「得意のプロテクション&リフレクションで熱を返してほしいですわ~」
「う~ん、前プロテクションを張ってみたら熱がこもるだけだったよ……」
「……やったのね」
「やったよ……」
暑さでへばった二人は王都についたら、冷たいスイーツがどこかで売っていないかとこの暑さから現実逃避することにした。
そんなこんなで予想よりかは早かったとはいえ、長かった旅路も終わり、ようやく王都にたどり着く。城門前で邪龍騒動の際に一緒に戦ったクラインとアリスが二人を出迎えてくれた。騎士団の二人の客ということもあり、見張りの兵士からは子供の二人にも敬礼をする。
城下町は市場で見知ったものもあるが、ここで取り扱っていないものはないのではと思われるほどの品々がずらりと並ぶ市場、そこから漂う食品のいい匂いが二人の鼻孔をつく。
ぎゅるるとお腹の音が鳴ったのはどっちか分からないが、長旅でロクなものを食べていない二人にアリスは路上で売っていた数種類の果汁が入ったフルーティーな薬草のジュースや果物をスティック状にして串に刺したものを買って、二人に渡す。
「こういうときに『代金は俺が出す』とか言わないから、女の子にもてないのよ」
「待て。なぜ、そういう話になる。それに宿や馬車の手配をしたのは俺だろうが」
「そんなのしら~ない」
「だろうな。俺が空いている宿を探している間、お前はファッション雑誌読んでいただけだだからな!第一、お前はまじめにやれ……」
「ではでは、クラインが探し出したイチオシの宿屋へレッツゴー!」
「おい、俺の話は終わってないぞ……まったく」
クラインの小言を聞きたくないアリスとなんだかんで許すクラインの夫婦漫才を見て、ソフィーとクレアはくすくすと笑う。
そして、市場を抜けてしばらく歩いた先にある宿に入ると、きれいな高級感あふれる白壁のそばによくわからない観葉植物が置かれ、小奇麗に清掃されている店内で清潔感漂うスーツ姿の男性に二人が泊まる部屋へと案内される。
部屋は女児二人が泊まるには広い部屋、ふかふかのベッドが二つ置かれている。窓の外を見ると、青い空とくるりと外周をはしる城壁の一部が見え、見晴らしがよい部屋であった。
クラインが図書館や博物館などの施設を案内しようと外へ出ると、頭上から凶刃がキラリと光る。それを肌で感じ取ったクラインは大剣を手に取り、刃を防ぐ。
「チェストォォォォオ!」
「またお前か!キース!」
一撃を防がれたキースと呼ばれた男性はくるりときれいな着地を決める。アリスとは違う黒みかかった赤髪に、赤く黒く日焼けした肌、ギラリと凶暴な目つきに犬歯がとがっており、猛獣や狂犬といった印象を二人に与えた。
「ここは戦闘禁止だと何度言えば……」
「かんけぇなねぇよ。不意を突かれて身内にやられるようじゃあ騎士団は名乗れねぇだろうが。せいぜい後ろから撃たれないよう気をつけな」
クラインにそう言うとキースはソフィーに対して興味深げに顔を近づいてくる。怖そうなキースに対し、ソフィーはたじろいでしまう。
「今、俺が興味があるのはコイツの中にある獣だけだ。もし今晩、時間があるなら、郊外の岩場まで来な」
そう言い残すと、走り出したキースは人ごみの中へと消えていった。嵐のようなキースとの邂逅も終わり、クラインと共に城下町の案内をしてもらうことになった。
一方、そのころ、あごひげを生やした精悍な顔つきで歴戦の勇士である騎士団長のレオン、髪を整え眼鏡をかけた腹心の部下ヨシュアがテーブルをはさんだ先に座っている肥えている大臣らと国王の前でも動じることなく、報告書を読み上げている。
その内容は邪龍騒動の裏で行われていた帝国の謎の機動兵器についてのものだった。機動兵器の戦力自体は学生が対処できるほどのもので特筆すべきことではないが、問題は魔獣を操ることができたという点だ。
今までの歴史の中で隣国である帝国との戦争は海上での戦いがメインということもあり、陸上での防衛、マデカーイ山脈の関所の戦力はそこまで割いていない。それは地形的な意味もあるが、魔獣という障壁も存在していたからだ。
もし、それらの魔獣をすべて帝国が操ることができるのであれば、いくら騎士団が優秀とはいえ、数の暴力によって王国の存亡の危機につながりかねない。そのため、こうして議論を重ねているわけだが、国防の予算というのは平時では増やすのが中々難しいのが現状であった。
そして、議論の終わりには「帝国と対話し、戦争回避に向けて努力する」という大臣の誰もが用意していただろう無難な答えにたどり着くことになった。そんなやる気のない答えに騎士団の二人は歯がゆい気持ちを代弁するかのように拳を握りしめる。
国王や大臣が退出して誰も居なくなったのを見計らって騎士団長は壁を力任せに殴りつける。
「奴らはこの国が滅んでも良いと思っているのか!」
「落ち着いてください。彼らがいくら馬鹿でも国を亡ぼすような真似はしませんよ」
「だがな、予算は増えん、人員も増やさんでは現状維持がいっぱいだ」
「となれば、最小限の人員で我が国に潜んでいる帝国の人間が打とうとしている次の一手を未然に防がねばなりません」
「だから、お偉いさんが集うこの受勲式で帝国のスパイを炙り出して一網打尽ってのはわかるんだがな。万が一……って考えると気乗りしねぇんだよな」
「そうならないよう騎士団である我々が厳重な警備を敷いているわけです」
「まあな。よし、書面仕事は俺たちが片付けて部下たちにはパトロール任務を与えろ。不審な行動をとるものが居れば、勝手に追わず必ず連絡をよこせ」
騎士団長の命により、騎士団全員に任務が通達されていく。それは城下町を案内していたクラインたちも例外ではなく、後ろ髪を引かれる思いで、クレアとソフィーと別れることとなった。
三日月が照らす夜空の下、月と同じ金色の髪をなびかせながら、マリアはキースから指定のあった岩場へと出向いた。あちらこちらに大小さまざまな岩が転がっており、身を隠すにはもってこいといった場所だ。
辺りは不気味なまでに静まり返っており、虫一匹の声すら聞こえない。
そんなとき、風を斬り裂く音がかすかに聞こえ、マリアは素早くその場所から離れる。先までいた場所の後ろに合った岩に弾痕が残っており、狙撃されたと知る。狙撃されたほうを見るとキースが煙が昇っている銃を1丁構えていた。
「おいおい、魔法で発砲音を消しておいたのに初見でかわすとか……どんな化け物だてめぇ」
「か弱い女の子が夜中に一人で来ているんだ、何が起こっても大丈夫なように警戒するのは当然だろ」
「てめぇがか弱いなら、人類全員がか弱くなるぜ……俺は違うがな!」
続いて、キースが次から次へと銃弾を放つが、会話中に作成しておいた剣をマリアが振り払い、弾丸を斬りはらう。数発の弾丸はマリアが避けた場合か、マリアに当たることもなく闇へと消えていった。
「なるほどな……昼間見た限りでは剣使いだと思ったが、銃使いと気づかせないためのフェイクか?」
「ああ、これ? そんなわけ、ねえだろ……『タクティカルアームズ』のキース様が!」
キースの手元から銃が消えると、先端に魔石が装着された杖が現れ、呪文を唱える。
「喰らいな、ファイアーウェーブ!」
「これは逃げ切れないな……シャイニングプロテクション!」
杖によって強化されたキースの呪文は巨大な炎の波を発生させ、マリアの逃げ道を塞いだが、とっさにマリアは結界を作りそれを耐える。炎の波が収まるとその先には槍を持って突進するキースの姿が見える。
魔法攻撃を一度防いだことで弱まっている結界は槍で貫かれてしまう。すかさずキースは得意武器の剣に切り替え、マリアに向けて剣を振るうが、向こうの反応速度もまた並みではなくぎりぎりのところで防がれる。
得意のコンビネーションを防がれたキースは一度態勢を立て直すため、一度後ろに下がる。それを好機と思ったのかマリアはパーティカルレイをキースに向けて放つ。
「本命は数発だが、1発避けようとしたら2発あたるようにしている光弾もある。しかも、一振りで対処できないよう時間差付きか。だが、本命だけを打ち落とせばいいんだろ!」
銃で自分に当たる光弾だけを打ち落とし、それ以外の光弾を落とさないようにした。そして、後ろにいた観客たちのうめき声が聞こえる。
「いつから気づいた?」
「2回目の銃弾攻撃だな。銃のアドバンテージを失われている中で、銃で攻撃したのが奇妙だった。その後の様々な武器を使うお前を見れば、その違和感は大きくなる。結界中に軽く探査してみたら、不届き者の観客が居たというわけだ」
「はやいことで」
キースは岩場の陰から湧いて出てきた黒づくめの男たちを睨めつける。第2ラウンドでも始めるかのように、首をゴキゴキと鳴らし、勢いよく飛び出していく。マリアもそれに負けじと彼とは反対側に出てきた黒子君に斬りかかる。
黒子君がダガーで反撃しようにも、偵察任務が主な彼らではバトルジャンキーな彼らに敵うわけもなく、首元を斬られたり、手足をもがれ逃げることができなくなったことで自決するものと蹂躙されていく。
二人が快進撃していると、急に背後からクナイが飛んでくる。彼らが後ろを振り返ってもそこには死体の山が積みあがっているだけで誰もいない。だが、攻撃はどこからともなく飛んでくる。
「2か所同時に攻撃してきたことを踏まえると術者は少なくとも2人いるな」
「ちっ、避けれるのは良いが目障りな野郎だぜ。少しは出てきたらどうだ」
月明かりに照らされた二人の影の中から人がにょきと出てくる。一人は白髪の老人でもう一人は小太りの青年だ。
「ではではそれに甘えよう0とするかのう。ワシは影丸」
「オイラは月丸」
「影に入り込む魔法ってやつか……うわさでは聞いたことはあるが、やりあったことはねぇなぁ!」
キースが銃で撃つよりも早く月丸が影に潜り込み、その姿を消す。
「おぬしは攻撃をせんのかのう?」
「今、攻撃しても徒労に終わるからな」
「ホッホッホッ、物分かりのいい若者は嫌いではないのう。おぬしは見たところ光使い。光を使えば必ず影が生じる。影無くして光を放つことはできず。この試合はワシらの勝ちじゃ」
影丸は勝利を確信し、マリアの影へと潜る。前方のダガー攻撃をさばきつつ、二人の影や敵からの影から飛び出してくるクナイをよけながら、マリアは呪文詠唱の準備に取り掛かる。
「安心しろ、影使い。光は闇を照らすものだ。ジャッジメントレイ」
空中に光の玉を無数に浮かび上がらせる。頭上の光弾によって照らされた影は足元のちょうど真下にしか来ない。あとは彼らの最後の移動先を見失わないようにし、クナイ攻撃のタイミングに対して、カウンターで光の剣を影から出てきた手に突き刺すと利き手を斬られた痛みで二人が影から出てしまう。
影から出た二人に容赦なく刃が襲いかかり、絶命する。襲撃者の中で一番の手練れだった二人を失った黒子君は一目散に逃げようとしたが、展開済みのジャッジメントレイによってダメージを負い、倒れこむだけとなった。
「威力は弱めておいたが、1発で気絶するとはな。やはり魔力消費が嵩む上級呪文は使いづらい」
「生きているだけ上等だ。連れていくのは面倒だから、他の連中に任せるとして。てめぇの名は?」
「私はマリアだ」
「マリアか……俺が女の名前を覚えるのは片手で数えるほどしかいねぇから、感謝しな」
キースが仲間を呼びに走り出すと、強化魔法でも使っているのかあっという間に姿が見えなくなった。マリアが倒れている黒子君の身元を知ろうとポケットに手を突っ込んで何か無いかと調べると、身分書が見つかった。そこには帝国の人間であることが記されていた。
魔法を嫌っている帝国の人間が魔法を使っていることから身分書自体が偽装の可能性はあるが、マリアは厄介ごとにまたしても巻き込まれたと察する。
「王国にいる悪意を持った自称帝国の人間……何事もなく終わるわけはないか」
この厄介ごとにどう対処するか宿に帰る道すがら考えることにした。
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