第15話 滅びの国

 期末試験を終え、一部のものには追試験を与えられたものの多くの生徒たちは夏休みが与えられる。ソフィーが所属している1-Bでもそれが与えられるわけだが、今回は少し違った。


 2回も天災級の事件に巻き込んだことの謝礼として、ギルドから通常の報酬に加えてアトラス海岸への無料宿泊が与えられることになった。ただし、制服の着用は義務付けられているが。


 1-B全員で1つの施設に押し掛けるのもと思い、くじ引きでいくつのかのグループに分かれることにした。ソフィーはクレア、エディ、ローラ、アルフォンスの合計5人のグループとなった。


「よっしゃー!この金でアトラスの海産物たらふく買ってやるぜ!」


「あそこの海産物と言えば砲丸フグ、バトルロブスター、軍隊マグロが有名だね」


 だが、時間はまだ昼前、食べるにはまだ早いということで、観光名所の一つである海洋博物館へ行くことになった。そこには、帝国産の水槽に海で生きている生物が入れられて展示されたり、海に住んでいる巨大な生物のはく製が魔法で浮かべられ、海中の動きを再現させ、天井を泳いでいた。ソフィーはパンフレット見ながら、展示ブースを渡り歩いていた。


「ここは……古代文明展?」


 ソフィーが中に入ると、帝国と共同で発掘作業している様子が描かれていたり、海洋遺跡アトランティカの模型が展示されていた。遺跡の中央には神殿らしき建造物があり、大昔ここで祭事が行われていたと考えられる。また、出土品らしきさび付いた剣やアクセサリーや鏡の一部等も展示されている。


『この剣は現在の製法と遜色ない製法で作られており、彼らが持つ高い技術力が示唆されてします』


「すご~い。大昔なのに私たちと変わらないんだって」


(昔の方が魔獣が強いからな。それに迫られて技術が異常発達したのだろう)


「昔の方が強いんだ? なんで?」


(ああ。強くて害のある魔獣は駆除の対象になりやすいが、弱くてもずる賢いやつらは生き残りやすい。弱いやつだけ生き残れば種としても弱くなるが、全滅だけは免れてしまうわけだ)


「強すぎてもダメってことだね」


「ソフィーちゃん、マリアさんと話すのは良いけど、独り言になっているからちらちらこっちを見ている人がいるわよ」


「や、やっちゃった。もうみんなにばれたから別にいいかなって……つい」


(ローラ、すまない。あまり話しかけないようにする)


 変身していないマリアの謝罪は当然、ローラには聞こえないのだが、ローラはうんうんと頷き、展示されているものをじっくりと鑑賞している。


「昔、地形の変動で滅んだ国ねぇ。あんなさび付いた剣みて何が楽しいんだか」


「まあ、あんたみたいな能筋バカにはこういう太古にかけるロマンってのは一生分からないわよ」


「なにをぉ……!?」


 エディがローラにちょっと怒ったような態度をするが、手を出してはいない。最低限のことは守る辺りは貴族の血筋が流れているせいだろう。本人の普段の態度や行動からは全く想像できないが。そんな二人をアルフォンスが中に入って止める。


「向こうでマッドシャークvsヘルオクトパスの世紀の血戦ショーをやっているみたいだから見に行こう」


「サメとタコならサメの勝ちだろ」


「いやいや地獄がついているからね。きっと並々ならぬタコだよ」


 一緒にショーを見に行くと、巨大な水槽の中に入れられたマッドシャークがヘルオクトパスの脚を食いちぎり、優勢に立っていた。だが、途中からマッドシャークの反応が鈍くなり、オクトパスの長い脚で絡みつかれ、食べられてしまう結果となった。


「ショーの最後に渡された冊子によるとヘルオクトパスには遅効性の毒があって、マッドシャークが余裕をかましているうちに回ったみたいだね」


「毒があるとか卑怯じゃね?」


「むしろ、どんな手段を使っても勝ちに行くという強い意志を感じたよ、あのタコから」


「そういうもんかねぇ。タコタコ言うから、お腹が減ってきたぜ」


「私、海に来たからには海の家で食べてみたいですわ。海鮮丼というのに興味ありますの」


 クレアの提案により、5人は博物館から程近くにある浜辺に向かい、木造建築の海の家に行った。そこでは水着の女性が売り子をやっており、彼女目的なのか鍛えられた肉体を持つ男性たちが決して安くない海鮮丼を飛ぶように買っていた。クレアたちが買った時点で売り切れとなってしまった。


 生の魚を食べることがほとんどない彼らにとって初の刺身を恐る恐る食べると、ぷにっとしたやわらかい触感と黒いたれとの相性が良く、一緒に食べる下の飯がすすむ。


「この軍艦マグロの刺身美味しいわね。ウチでも食べられないかしら」


「なんでも帝国産の船にはドラゴニウムが積まれていていつでも冷凍の魔法が使えるようにして、釣った魚を冷凍保存と寄生虫の駆除を兼ねて行っているから、火を通さずに生に近い状態でも食べれるみたいだね」


「ドラゴニウム……その名前は軽くトラウマですわ」


 ドラゴニウム関連でリッチと戦ったことのあるクレアはそのときの状況をありありと思い浮かべ、箸が止まる。ギリギリのところで生死の境から生還した本人からすれば二度と聞きたくないワードだろう。


 全員が食べ終わったところで、水着でも買って海で泳ごうとしたとき、それは起こった。水平線上に何か細長い何かが見え、動物の鳴き声が聞こえる。それが確認されせいなのか辺りに警報が鳴り響く。何が起こったのかわからないまま5人は浜辺から逃げ出していくが、沖から迫ってくる巨大な波に飲み込まれてしまうのであった。




 ソフィーが目を覚ました時、浜辺にいた。だが、辺りを見渡しても海の家どころか建物すら見当たらない。しかし、自分以外の4人を見つけたので、念のため一人一人に回復魔法をかけてから起こすことにした。全員が起きたところで、今後どうするか考えることにした。


「周りの植物の群生から考えると、私たちが居たアトラス海岸よりも南側と考えられます」


「つまり、津波に飲み込まれた僕たちはどこか別の島に流されてしまったってこと?」


「その可能性が高いと思います。夜になれば星の位置で方角はわかるから、船か何かで北に進めば王国、最悪でも帝国にたどり着けると思います」


「じゃあ、船を借りるか作ろうぜ」


「だけど、食料も必要だわ。その前に島を探索して……」


 そんなとき、少年の叫び声が聞こえる。まだ生存者が居たという喜びも困っている人が助けに行くという心の方が強かった。迷うことなく5人は声がした森に行くと、皮の布で作られた服を着た少年と全身緑色でこん棒らしきものを持っている魔獣、ゴブリンが居た。


 だが、通常のゴブリンは子供くらいだが、今目の前にいるゴブリンはそこらの大人の男性よりもがっちりとした体格で、後ろ姿だけではオークやオーガと言われれば納得する大きさだ。


「騒乱を許さぬ木々よ、彼の者を縛り給え!ウッディバインド!」


 ローラの魔法により、周りの木の枝が伸びていき、ゴブリンを縛り上げる。そして、強化魔法を使ってエディがで身動きが取れなくなったゴブリンを一刀両断にする。これがゴブリンよりも馬鹿力のオークや魔法も使えるオーガではこうはいかなかったことを加味しても見た目は似ててもゴブリンはゴブリンであった。

 ソフィーが少年の擦り傷を治し、話を聞くことにした。


「ありがとう、お姉さん、お兄さん」


「当たり前のことしたまでよ。っで、お父さんやお母さんはどこにいるか分かるか?」


「うん。ついてきて」


 エディはこれで大人から話ができると考えた。ここが無人島だろうと有人島だろうと大人との協力は必要不可欠だ。そして、少年が案内した先には木と藁で出来た家と中央には井戸が掘られており、数人がその井戸から水を汲んでいる。そして、少年はきょろきょろと見渡し、民族風の衣装に身を包んだ夫妻に抱かれに行く。


「コラ!勝手に森の中に入ったらだめじゃない!」


「ごめんなさい。でもあの人たちが助けてくれたんだ」


「えっ~と、貴方たちは見かけない服だけど……」


「私たちの制服を見て、魔術学園のこと知らないって……」


 どんなド田舎よと言いたそうなクレアだったが、友好関係を築くためにもその言葉は良い放さないようにした。


「魔術学園? すみません、聞いたことが無くて」


「いえ。それも無理もありません。僕たち、遭難してここまでたどり着いたんです。できれば地図とか船があればなと」


「それはそれは大変だったでしょう。明日、巫女様の神託の儀があります。見ず知らずの息子を助けてくれた貴方たちなら、祝福をくれるかもしれません」


 どうやら、この島での大きな行事が明日行わるようなので、一般市民が知らなくても位の高い彼らなら魔術学園のことを知っていて連絡手段が取れるかもしれないと考えた生徒たちは、一晩泊めさせてもらうことにした。


 早朝、神託の儀が行われるという祭壇へと向かった。森の中にある白い大理石でできた厳かな神殿は、どこか神秘さを感じさせるものがあった。そして、青と白の服を着た巫女、年は生徒たちの母親と同年代くらいの女性が優美な装いで出てきて、慣れた手つきで舞を行う。


 儀の終わりごろに鏡を頭上に高く掲げると、どういう仕掛けがあるのか金色に輝いていく。そして、光が収まると巫女は告げていく。


「この地に災いが参ります。これは逃れられぬ運命。ですが、希望の勇者たちによって打ち砕くことができます」


 中々物騒な神託だ。だが、生徒たちはそれよりもそのあとの民衆の反応に驚くこととなった。なぜなら……


「うおー、我らアトランティカは不滅だ!女神様、万歳!」


「今、なん、つった?」


「アトランティカ、確かそれって……」


「古代文明展の」


「滅んだ国でしょ!」


 クレアを除く4人がその名に驚いた。滅んだ国の名を呼んでいるからだ。


「あの祭壇、展示室に合った模型と同じですわ。つまり、私たちは海に沈んだ古代文明都市アトランティカにタイムスリップしたというわけですわね」


「クレアちゃんはなぜそんなに冷静なの!」


「こっちは盗賊に捕まったら、天災級と戦う羽目になって、リッチと戦ったら天災級と連戦する羽目になった身。今更タイムスリップ如きでは動じませんわ。ホホホ」


 今までの辛い経験がぶり返してしまったのか目のハイライトが消え、冷たく笑っている。これまでの戦いでクレアの心はどこか壊れてしまったか麻痺してしまったようだ。変に触らないでおこうとローラは決心した。

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