第5話 裏切りのハンター

「来いよ、三下」


「今日こそそのにやけたツラに一発食らわせてやるぜ!」


 2人の少年が長めの木の枝でチャンバラごっこしていた。木の枝がそこそこ太いこともあり、1発2発で折れることはなかった。そして、糸目の少年が黒髪の少年の腹に一発打ち込み、チャンバラごっこは終わった。



  アイアンは懐かしい夢を見ていた。今回のクエストは魔獣退治だけでなく子供たちの面倒を見ないといけないからだ。

 急増している魔獣はE~Dランク、Cランク数名でも十分対処は可能だし、生徒たちも頭数にある程度は入れても良いだろう。そう思いながら、クエストの準備に不足が無いか確認し、仲間と共に集合場所へと向かった。



「というわけで、お前たちの世話係になったリーダーのアイアンだ。世話係っつても、世話する気ないけどな!」


「……サブリーダーのシルバーや。ワイらのリーダーは馬鹿やから、何かあったらこっちで対処するで」


「俺はカッパーだ。見ての通り、シールダーと力仕事をメインにしている」


「紅一点のフランよ。脳みそが筋肉ができているような連中と手を組むことが多いから、そのフォロー役」


  昨日、偶々出会ったギルドの人らが簡単な自己紹介を済ますと、魔獣探索チームと防衛チームに別れることになった。ソフィーは魔獣探索チームに加わり、アイアンとフランの後ろを歩いていく。森の中をある程度進むと、フランが地面にある折れた木の枝を指差す。


「魔獣被害が多いところでは、大抵巣が近くに作られていることが多いの。だから、こうやって魔獣の手がかりを見つけながら、何処に巣があるか探さないといけないのよ」


「今回は頭が悪い奴らだから、こうやって見つけるのが楽だ」


  暫く歩いていると、小さな洞窟が見受けられる。黒い獅子の魔獣が何匹か入れ違いに入っているから、此処が巣なのは間違いない。一度、巣から離れた後、フランが地面に魔法陣を描き、茶色の光が淡く輝りだす。光が収まると、魔方陣が洞窟内の地図と思われる模様に変化していた。


「洞窟内はそこまで広くはないけど、最奥部に魔獣の子供がいるのは最悪ね」


「一匹でも逃すと駆除が厄介だからな。だが、最奥部まで進行しようと、剣が自由に振れない狭い洞窟は不利かもしれない。何とかしてあいつらを追い出す方法を考えないとな。てめえら、何かあるか?」


  突然、作戦の立案を振られた生徒たちは「何する?」「どうする?」と近くにいた子らと相談する。すると、茶髪でおさげのローラが手を挙げる。


「この木の実と草を燃やしたら異臭を放つので、巣から追い出せると思います」


「悪くない案だが、2つ欠点がある。一つは奥までその異臭が届くのかということ。もう一つは怒り出した魔獣が勢いよく外へ飛び出すから、お前らを守り切れないことだ。カッパーかシルバーが居れば話は別だったんだがな」


 勇気を出して意見をだした彼女だったが、穴を指摘され落ち込んでいると、今度は線の細い男子生徒のアルフォンスとソフィーが手を挙げる。


「僕の風魔法を使えば、異臭を奥まで届かせることができると思います」


「風魔法の併用か…ならできそうか。で、ソフィーだったか、お前さんは?」


「急に襲い掛かるのが危ないなら……策はあります」


「よし、言ってみろ」


 アイアンはソフィーの作戦を聞いた途端、ちょっと顔が引きつった。




 魔獣のボスが洞窟の奥で我が子が肉を食らいついているのを見ながら、鎮座している。そんな時だった。あまりの異臭が突然襲い掛かってきたのだ。魔獣たちには知る由もないが、アルフォンスがにおいの成分が辺りに待ち散らないように風魔法で移動させていたのだ。


 そして、最奥部でにおいが一気に充満した。当然、周りにいた魔獣たちは、一目散に洞窟の外へと駆け出していく。出口の光の先には人間たちが待ち構えていた。彼らがヤッタ!コロセ!と言わんばかりに足に力が入る。そんなとき、ソフィーの声が聞こえる。


「プロテクション&リフレクション!」


 何もないはずのところにぶつかった後、後方へと吹き飛ばされ、後方の魔獣とぶつかり合う。そんな彼らに構う様子を見せず、後方の魔獣はまだ生きているにもかかわらず、踏みつぶし蹂躙する。だが、何匹の魔獣が見えない壁に阻まれてしまうと、足を止め、壁が消えるのをじっくりと待とうとする。


「みんな!」


 ソフィーの声と同時にプロテクションが消え、魔法をうつ準備を整えていた生徒やフランは各々の得意な攻撃呪文を次から次へと放っていく。洞窟という狭い場所では魔獣たちの自慢の脚も生かすことができず、魔法の波状攻撃に飲み込まれ、その命を落とす。

 この作戦を聞いていたとはいえ、アイアンはえげつねぇ作戦と評価していた。


 入り口の魔獣を全滅させたとき、魔獣のボスである血のような赤黒い獅子が雄たけびを上げた。すぐさま、アイアンは火炎剣となった自分の愛刀を握りしめ、強化魔法をかけて走り出す。

 怒り狂った獅子は目の前に映る男性を八つ裂きにするため、己の鋭い爪で襲い掛かるとその姿が露と消えた。


「アイスミラージュ!あなたの目に映ったのは幻ですわ」


「よくやった!これだけの隙があれば…くらえ、火炎剣!!」


 クレアのサポートで逃げ出す暇がない魔獣は火炎剣を食らい、その炎で焼き尽くされるのであった。魔獣のボスを倒した後、洞窟内で倒れている魔獣らの生死を確認しながら、奥へと進んでいくと魔獣の子供がにおいのせいかぐったりと倒れている。


 その様子だけだと猫などの愛玩動物が寝ているようで可愛らしいが、成長するとどれだけの人々を犠牲にするかわからない。後顧の憂いを断つため、アイアンはその件を振るい、その災いの芽を取り除いた。


 依頼の達成を完了したアイアンは洞窟から抜け出そうとしたとき、フランが「あら?」ともらす。


「どうした、フラン」


「見て、これ。魔法陣じゃない?」


 フランが指摘した子供の死骸の奥の壁に幾何学模様にも見える岩肌があった。


「そう見えるな。もしかすると風とか染み出した水とかで天然の魔法陣ができて魔獣を呼び出したのかもな」


「そういう偶然は聞いたことないんだけどなぁ」


 フランは魔法を放って、魔法陣の岩肌の一部を破壊する。魔法陣は一部でも破壊されれば魔獣の召喚はなされないため、これで一安心といったところだ。

 そして、街に戻り、防衛にあたってい半分の生徒からは群れの残党と思しき魔獣が襲い掛かったが、ギルドの二人でほとんどの魔獣を撃退したという話を聞くことになった。



 月明かりが照らす中、フランは単身あの洞窟へと向かっていた。どうしてもあの魔法陣のことが気になり、メンバーと相談せずに宿から出てしまった。そして、あの岩肌にたどり着き、慎重に魔法陣を調べる。


(やはり、誰かの手が入っている…!? でも、この魔法陣どこかで……)


 フランは魔法陣の癖から見覚えのある人物を割り出そうと深く思案していた。そのせいで気づくのが遅れてしまった。もう一人の人影に……




 早朝、アイアンの止まっていた宿屋では大騒ぎになっていた。


「大変だ、フランがどこにも居ねぇ!」


「こっちもだ!」


「なんや騒がしいな。何かあったんか?」


「シルバー、今まで何処行っていたんだ!フランが消えた!」


「なんやて!? ほんまかいな!」


「ああ。とにかく学園のフィールドワークは中止にしてもらって…」


「それやったら、ワイと女教師が昨日と同じ生徒たちの様子みて、リーダーとカッパーが巣の探索もかねてフランを探すのはどうや。戻ってきたら問題ないし、何かあってもそっちに戦力があったほうが便利やろ」


「そう…だな。生徒たちを頼むぜ!」


「ああ、任せておき」


 アイアンとカッパーが出ていくのを見計らって、シルバーはニヤリと薄い笑みを浮かべた。



 アイアンとカッパーと生徒たちはフランを探していた。1日しか行動をしていないとはいえ、彼女が居なかったら、昨日の作戦はまず成り立たなかったし、何よりも一緒に戦った仲間という意識が強く残っていたからだ。フランの探索中、何匹かの魔獣とも遭遇したが難なく撃退している。

 そんな時だった、複数の人間に周りを囲まれてしまった。


「てめぇら、何もんだ!」


「はん。これから死ぬ奴に名乗る名前なんかねぇよ」


 盗賊と思しき男たちとの間に黒い魔法陣が浮かび上がり、骸骨が鎧を着て剣と盾を持った兵士がワラワラと出てくる。


「召喚魔法……だと……!?」


 召喚魔法は文字通り、無機・有機、生物・非生物を召喚する魔法の総称である。水や火を出すのも分類上は召喚魔法に含まれているが、一般的には生物もしくはゴーレムやアンデッド等の非生命体を呼び出す魔法として知られている。ただ知能体を呼び出すと魔法の制御が甘いと反逆されてしまうこともあり、使いづらく使用者が少ない。


 そのため、アイアンは誰がこの魔法を使用したのか薄々と気づいてしまった。


「シルバー!」


 もはや隠す気もないのか盗賊たちの後ろから、シルバーが現れる。こうなるとフランが居ないのも彼の仕業と察しが付く。


「フランをどこへやった!」


「フラン? ああ、昨日の晩、いい素材になってもらったわ」


「シルバー、貴様ぁぁぁぁぁあ!」


「よせ、カッパー!うかつに近づくんじゃない!!」


 雄々しい声と共にカッパーが自慢の斧を持ちあげながら突進する。だが、そんな単調な攻撃をシルバーは軽々とかわし、持っていたナイフで切りつけるとカッパーの動きがピクリと止まる。


(うっ、体が……しびれ……)


「パラライズナイフの切れ味はどないや。な~に、麻痺はすぐになくなるで」


 カッパーの周りを円陣でも組むかのようにぐるりと骸骨の兵士が並び、剣を高く持ち上げる。黒ひげが樽に入って剣を刺すと飛び出すゲームかのように、次から次へと剣が突き刺さっていく。ソフィーはマリアに助けを求めたが、


(ダメだ。この状況では誰かが人質に取られてしまうだけだ。ここは待つしかない)


(でも、カッパーさんが!)


(……残念だが、彼はもう……)


 おびただしい数の剣が突き刺さったナニカをせっせと運ぶ骸骨の兵士たち。そして、生徒とアイアンに魔封じの腕輪がピタリとはめ込まれ、敵のアジトへと連行させられる。


 アイアン、ソフィー、クレアの三人だけは他の生徒と異なる階層の牢へと入れられる。シルバーが言うには


「あんさんらは素材として優秀なさかい、間違えないよう別保存しいひんと。残りの生徒と女教師は盗賊にうっぱらって商談成立や」


 とのことだ。


「シルヴァの野郎、俺たちをどうするつもりだ!」


 アイアンが牢をガシガシと動かしてもビクともしない。クレアは自分の腕についている腕輪を憎く見ていた。これが無ければ、これしきの牢を簡単に破壊できるからだ。


(マリアお姉ちゃん…)


(心配するな、問題はない)


 ソフィーは心の中にいるマリアの言葉を聞いて安心する。マリアが大丈夫といったなら、それは本当に大丈夫だと知っているからだ。


「アイアンさん」


「ん?なんだ、ソフィーちゃん」


「これから起きること黙ってください」


「ああ。俺は口は軽いが、約束は守るタチだ。約束する」


 ソフィーの体が金色の光に包まれ、手足が成長していく。その過程でサイズが合わなくなった衣服がそのデザインをそのままに再構築されていく中、腕輪だけがひび割れ破壊される。そして光が収まり、6年前からほとんど成長していないマリアの姿がアイアンの前に現れる。


「あんたはいったい…」


「クレア、魔力の流れをよく見ておくといい。この手の腕輪はこうやって外すんだ」


 アイアンのつぶやきを無視したマリアがクレアの腕輪に魔力を注ぎ込むといとも簡単に腕輪が外れる。それを真似てみてアイアンの腕輪をマリアよりかは多少時間はかかったものの外すことに成功した。

 枷がなくなった3人は立ち上がる。アイアンに精製した金色の剣を手渡し、マリアは鬱憤を晴らすかのように牢を破壊する。


「さあ、反撃開始といこうか!」

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