第55話
「判決を言い渡します」
目の前で正座をしている被告人を椅子に座って見下ろしながら、手に持ったペンを、トンカチ代わりにかつかつと机に打ち付けた。
あたしの隣からも、同じようなじっとりとした視線が被告人に向けられている。
「──被告人、千堂花音は無期懲役」
「ちょっと罪が重すぎませんか!?」
罪状。“泥棒猫”
ちなみに、あたしと那月さんは二人とも足を冷やしながら座っている。おかゆは熱かった。
※
「いいえ、だから何度も言ってますが、その、き、…すなんてしてません!ただ頭を胸に埋めるように抱きしめていただけで」
「十分アウトじゃないですか。一発で浮気認定されるやつですよ。言い逃れできないパターンですよ」
「まったく、これだからすぐベタベタと接触を求めようとする者は……」
「いや、先輩も同じようなものですからね?」
間接キスのためにあれこれやってましたよね?と被告人が反論する。
「では、本当にやましい気持ちは一切無かったと?」
「ありません!」
「ではもしもその時兄が起きていて、流れで危うい雰囲気になっていたとしたら?」
「一向に構いません!」
「下心だらけじゃないですか!?」
やっぱりこの人もダメだった……。
こうなったら……。
「でも、兄ってアニメとか変身ヒーローとかが好きで、オタクとか言われる部類の人なんですよね」
これでドン引いてくれたらいいんだけど……。
「なんだか子どもっぽくて可愛いですよね」
言いながら、手を合わせてニコッと微笑む花音さん。
「……それ、絶対兄が起きてるところで言わないほうがいいですよ。顎から崩れ落ちます」
「膝じゃなくて顎からですか!?」
しまった、何故か余計な助言までしてしまった。
くっ……!
「実はボクもたまに見るんだよ、ヒーローものの番組。 ああ、あんなに無様にやられて……」
「あの。恍惚の表情のところ悪いんですけど、多分敵の方に感情移入してません?それもかなりヤバめの感情移入」
那月さんはちょっと黙っててもらっていいですかね?というかあなたはどの立場なんですか。
「十宮君は、あの剣のおもちゃを持っていないのだろうか」
「何をソワソワしてるんですか!させませんよ!?おにいちゃんをそんな倒錯したことに巻き込まないでください!」
でも実は、おにいちゃんがこっそりと買っていることは知っている。
鏡の前でノリノリでポーズを決めていることも知っている。
もちろんおにいちゃんには内緒で写真に収めている。
変身!と言いながら抜刀していた動画もスマホに入っている。
「こうなったらもう武力行使しか……」
あたしは足を冷やすのをやめてクローゼットを開けると、そこから箱を取り出した。
その中に収められている剣を手に取ると……。
「な、何をする気ですか!?」
「成敗!!」
ちっ、避けられた。
「ちょっ!それって人に向けないでって書いてあるじゃないですか!」
「やはりあったのか……ボクもまぜてくれまいか!」
「「あなたはややこしくするだけだから引っ込んでてください!!」」
※※※
こうして病人が部屋にいる中、結局赤と青と黄色の剣をそれぞれ手にした三人がドタバタと騒いでいると……。
「………あの」
いつの間にか目を覚ましてベットから上半身だけ起き上がった……はいいものの、この状況を上手く飲み込めずに困惑して頬をかきながら、
「……………いらっしゃい?」
十宮蓮也は、とても今更な歓迎の挨拶を口にした。
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これからしばらく更新休止となります。
申し訳ありません。
再開時期などは未定です。
友達が2人いるだけだと思った?残念、ただの修羅場でした! ジュオミシキ @juomishiki
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