第48話 ただの幸せな遊園地デート
それからいろんなアトラクションを楽しんだところで(ジェットコースターの2周目には魂が抜けかけていたことだけ報告しておきます)、僕のお腹がぐぅと鳴り、そろそろお昼にしようということになった。
「どこで食べる?」
園内にはいくつかの売店と小さいカフェのようなものがあって、周りを見ると、売店で買ったものをベンチで食べたり、芝生にレジャーシートを広げていたりしていた。
「……………それなんだけど、実はね、今日は……その……」
そう言った神谷先輩は、モジモジしながら、持っていたバッグから風呂敷に包まれた箱を取り出した。
「………おべんとを、作ってきたんだ」
………さっき、今日の気分はコンビニのおにぎりかな?とか愚かな考えを持った事を、ここに深く謝罪いたします。
※※※
準備が良いらしい神谷先輩は、こうなることも見越してか、きっちりと二人用のレジャーシートを持ってきていた。
周りにならって芝生に広げ、ゆっくりお尻を乗っけると、首を倒して空を見上げる。
風が強いのか、雲が流れて行くのがはっきりと目に映った。
あー、なんだかとても安らかな気持ちになる。
と、ぼんやりしていると……
「どうかな。……その、あまり、凝ったものではなくてね。でも、味はそれなりだと思うから、食べてみてくれないかい?」
不安げに、その風呂敷に包まれていたランチボックスを差し出す神谷先輩。
そんな不安そうな顔をさせては友達が聞いて呆れる。
「もちろん!もう、お腹ペコペコで」
二段になっていたランチボックスの一つ目を開けると、そこにはぎっしりサンドイッチが入っていた。
「おいしそう。………じゃあ、いただきます」
その中から一つをとって、大きく口を開けてかぶりつく。少し甘めに味付けされたお肉とシャキシャキの野菜の風味が口に広がり、それが薄くマスタードが塗られたパンとバッチリ合っていた。つまるところ………
「んぐんぐ…………おいしい……!」
その感想を聞いた途端に、神谷先輩は、緊張の面持ちから朗らかな笑顔へと表情を崩した。
「ああ、良かった……」
「ほら、神谷先輩もどうぞどうぞ」
自分が作ったわけでもないのに、つい勧めてしまう。それほど美味しいものだった。
「あぁ、うん。………本当だ、確かに美味しいね」
食べてから、どこか予想外だというように、ほんのりと驚きも込めたように口を動かす神谷先輩。
「ほんとうに………美味しいね」
そして、噛み締めるように、もう一度そう呟いた。
※※※
二つめのランチボックスに入っていたフルーツ(うさぎのようにカットされたりんごなどが綺麗に並べられていた)も平らげてしまった後、満腹感からか、僕はレジャーシートの上で横になった。
「こら、十宮君。食べてからすぐ寝ると、消化に悪いだろう?」
「そこは牛になるとかじゃないんだね……」
それは迷信だよ、とランチボックスを風呂敷に包み直しながらそう言った後、神谷先輩も同じように隣で寝転んで空を見上げた。
「消化に悪いんじゃないの?」
「まぁ、今日くらいはいいかなって思ってね」
「そっか」
青々とした空を二人並んで眺めていると、どうしてか自然と涙がぽろりと溢れた。
「………綺麗だね」
「………あぁ、とっても」
僕の呟きに、先輩も同じように返してくれた。
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