第47話

目をパチリと開けると、そこには下から見上げるように神谷先輩の顔があった。

そこで 膝枕をされていた、いや、自分が先輩の膝を借りていたとぼんやり思い出す。

「……あ、起きたみたいだね。…………もう、大丈夫かい?」

たしか横に倒れてしまったはずの僕も、この状況で器用に寝返りを打ったのかいつも間にか仰向けになっていたらしい。

さっきまでのふらつきや吐き気はすっかり良くなっていて、体を起こそうとするとすんなりと起き上がることができた。

「うん、もう大丈夫だと思う。ごめんね、重かったよね」

どれくらいの時間が経っていたのか分からないけれど。

「いいや、気にしないでいいよ。むしろお礼を言いたいくらいだ」

「お礼………?」

「いや、別にだね、キミを膝枕してみたかったとか、寝顔をじっくり見たかったとか、わあこれなんて幸せなんだとか、そういうことじゃあないんだよね、ああ、うん。……とにかく、これくらいのことは気にしないでくれというのを言いたかったんだ。むしろラッキー」

「ああ、それならいいけど……」

どこか少し頬を赤くしてまくし立てる神谷先輩。

「それじゃあ、次はどこに行こうか」

あ。

「そっか、僕たち、まだコーヒーカップしか乗ってないんだよね」

「すまない。ボクのせいで……」

ああ、また落ち込んじゃってる……。

「だから、先輩のせいじゃないって。ほらほら、次だよ次。何に乗る?」

「では、またコーヒーカップにリベンジを」

………まぁ、さすがにそれは断ったよね、うん。


※※※


「なら、次はお化け屋敷なんてどうだろうか!」


二人で手を繋いで歩きながら園内を見て回る途中で、神谷先輩が言った。ちなみに今、手を繋いでいるのは、さっきダウンしたから念のためにその補助を……という意味合いが強い。


「噂によれば、仕掛けに紛れて本物が出たということもあったようなんだ」


あまり自信を持って言える事ではないけれど、


………僕は、心霊的なものにめっぽう弱いのさ。



「ぎゃああぁぁぁぁああああああ!」


どうも、案の定叫ぶ男、蓮也です。


なんか、僕、ここに来て叫んでばかりのような気がする。


隣で平然としたように、それでも僕とは違って楽しそうな悲鳴を上げる先輩の腕にしがみついてどうにか歩みを進める。


……こういうのって、普通逆じゃないですか?……あ、お化け怖い奴が負けだと? あぁ、そうですか、はい。


……………せんぱぁぁあああああい!


え?プライド?何それ?


あ、はい。思いっきり寄りかかりますね。


※※※


「ふぅ。いやあ、楽しかったね」


「ココ、オソト。アカルイ、ヒカリ。ボク、イキテル」


お化け屋敷を出たら、恐怖心の名残りか、何故かカタコトになってしまっていた。


「…………まぁ、でもせめてもの救いは、本物のお化けが出なかった事だよね。もし噂通りだったら、僕はこれから、もう二度と一人で眠れないよね」


カタコトからどうにか復活したものの、未だ神谷先輩の腕にしがみついたままの格好で、堂々と笑い話のようにそう言ったら……。


「………そうだね、キミは見ていなかったんだね。 ならきっと、その方が幸せだと思う」


え?? ちょ、それって……?


何か気になる事を言い出した先輩を問い詰めると、


「大丈夫、気にしなくていいんだ。もしアレだったら、ボクが一緒に寝てあげるから、なにも心配する事はない。本当に、大丈夫だから」


さらっとすごいこと言われた気もするけれど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。


「え?出たの?まさか、出たの!??」


「…………大丈夫だよ。逃げていったから」


余計に怖い……! つまり、逃げていく何かがいたってことだよねぇ!!??


「十宮君に近づこうとした瞬間、まるで嫌悪するように去っていったからね」


ぼっちオーラかぁああ!!!


え?お化けすらも友達になってくれないというの!??


むしろ僕か!?僕が怖いのか!!??


教えてくれ!!ぼっちオーラって何なんだぁぁぁああ!!!!


「いや、それにしても…………嫌な……事件だったね……」


「ちょっと!!? 結果何も起こってないんだよね!?」


僕たちは無事に外に戻ってこれたんだよね!?と自分の体に異常がないか、ペタペタと触って確かめる。


一体、僕は無意識のうちに何を遠ざけていたんだ……?


怖いよ。もう心霊とかそういう類じゃなくて、人間が一番怖いよ。


ぼっちオーラ、パねぇ……。

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