第45話

時は過ぎて、本日は、日曜日。


僕は待ち合わせのために、目印となる時計台の側に立っていた。


「午前7時。待ち合わせまで後3時間か………」


ちょっと早く来すぎたかな……。ま、遅れるよりいいよね。


真由に、『お兄ちゃんがニチアサをリアルタイムで観ないなんて…… 』って驚かれたけど僕だって日曜日に予定くらい入るのだ。今まで積み重ねたぼっち生活の信頼のせいだなんて言ってはいけない。それ以上いけない。

あぁ、そういえば……勝手に日曜日に真由に買い物に連れて行かれることも、これからは減るかもしれないなぁ。今までは何も予定が無いせいで、二つ返事でついて行ってた気もするけど多分気のせいだろう。『じゃあ何か予定あるの?』と言われて黙るしかなかったのもきっと気のせいだろう。

もはやいつも通りに一緒に買い物に行く準備をしていたら『あ、今日友達と遊び行くんだ』って言われて『おぉ、そうか。気をつけてな』と言って自分は特にする事がなくて一人で近所に散歩に行ったのもおそらく気のせいだろう。

………こう思い返してみると、一緒の買い物が減るのは、それはそれで寂しい気もするなぁ。


昨日あまり眠れなかったからか、ぼんやりとした頭で色々と考えていると、くあぁ…… と欠伸が出てしまう。

こんなにボーッとしていてはダメだと思って、眠気覚ましのタブレットを口に放り込む。


そして待ち始めてから2時間後。


「おはよう、十宮君。すまない、待たせてしまったみたいだね」


そんな神谷先輩の声が後ろの方から聞こえた。


「いやいや、ちょうど僕も今さっき来…………、…………」


声のした方に振り返り、彼女の姿を見た僕は言葉を失った。

そもそも、背も高くスタイルのいい先輩は、いつもピシッとした格好でいるのを見ることが多かった。どちらかというと、カッコいい感じの。

けれど今日の先輩はなんだか………そう、ふんわりしてる!

女性のファッションを褒めるのにはあまり適切な言葉じゃないかもしれないけれど……それでも全体的にふんわりしてるんだもの、しょうがないない!

でもそれが神谷先輩に合ってないとかじゃなくて、ファッションど素人の僕から見ても、とても似合ってるのが分かった。

ふんわりふんわり。


「ふんわりしてる……」


あ、声に出ちゃった。

大丈夫かな……、もしもの時は空の雲のことを言ったってことにしよう!

あ。今日、雲ひとつない快晴だぁ!


「ふ、ふんわり………? ええと、それは………。どうだろうか、に、似合ってる……かな?」


あまり着慣れない服なのか、少し顔を赤くして感想を求める先輩。

そう聞かれたのなら、ここで言う言葉は一つしかあるまい!

サムズアップとともに、元気よく、


「もちりょん!」


噛ーんだかんだ。


……………恥ずいぃぃ!


「……あ、ありがとう………」


広めの帽子を深く被って照れ臭そうにそう呟く神谷先輩。


噛んじゃったけど、先輩も嬉しそうだから良かった。


そうしてお互いに少し沈黙があってから、


「…………こほん。それじゃあ行こうか、十宮君」


そう言って手を差し出してくる神谷先輩。


そう、今日は二人で遊ぶのだ。



なんとなく流れで手を繋いでしまったのだけれど、果たして友達同士というのは手を繋いで歩くものなのか……? と、そんな疑問すらわかないものだ、ぼっちというものは。

だって友達いなかったから。

そのまま手を繋いで歩いていると、僕はここで当たり前の疑問を口にした。


「それで、今日はどういう予定で?」


そう。何も聞かされていなかったから、何も知らないままで待ち合わせ場所に来てしまった。

前もって一応聞いたけれど、「それは当日のお楽しみだよ」とはぐらかされてしまった。


「………今日はね、ここに行こうかと思うんだ」


ん……?


そう言って神谷先輩が見せてきたのは、遊園地のパンフレットだった。


なるほど、遊園地かぁ………。久しぶりだ。最後に行ったのはいつだったか。

たしかあれは小学生の頃。学校の行事、遠足か何かで行ったきりだったかな。もちろん自由時間も一人でアトラクションに乗ってたけど。

観覧車から見えた他の同級生の集団は、小学生ながらに見てて思うところがあった気がするなぁ。

もちろん観覧車も一人。


「もしかしたら、子供っぽいかもって思われるかもしれないと………、そう考えたら、どうにも言い出しづらくてね……」


そう言って、神谷先輩は目を伏せながらも、照れたようにはにかんだ。


僕は遊園地という懐かしい響きに少し驚きながらも、せっかく友達と行けるのならと喜んで同意する。なんならこちらからお願いしたかったまである。


「そんな事ない、僕だって遊園地に行きたいよ? 友達との遊園地だなんて初めてだし、むしろ楽しみしかないよ」


それは先輩をフォローするためのお世辞などではなく、紛れもない本心だった。


「………そう言ってもらえると、ボクも嬉しいよ」


神谷先輩は僕の言葉に、少しだけ苦そうに、はにかんだ。

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