第39話 ジーッと見てても体重減らねぇ!決めるぜ!覚悟!
‘我々がカップル’発言なんかもあった(パフェを持ってきた店長らしき人はぎこちない笑顔で帰って行った)けど、なんとか無事にみんなの注文してた分がきた。
……さて、と。
「このメロンは一旦置いておくとしようか」
メロンをテーブルの端の方に移動させる神谷先輩。
神谷先輩、それ一旦置いちゃうの?
でもまぁ、たしかにその前に……。
「このパフェのサイズだよね……」
大きい……。
これ、ほんとにカップル用?カップル嫌がらせ用じゃなくて?
おっと、ただ大きい大きいと言ってもその凄さが伝わりにくいので、ここでパフェの説明をしよう。
まずはその器のサイズ。ちょっとした土鍋くらいある透明な器にこれでもかとアイスやらクリームやらコーンフレークやらが詰まっている。というかはみ出してる。
さらにパフェの上部に盛られたクリームの側面にはびっしりとニコニコマークのクッキーが、これでもかと貼り付けられている。
なんだこの化け物は……。
そして最後に、パフェの上に刺さっているウエハースにチョコレートで書かれた文字。
『絶対に残すなよ』
なにか恐ろしい執念のようなものを感じる。
前に写真だけ撮って帰ったカップルでもいたのだろうか。
ついカッとなってやってしまったのだろうか。
いや、そうだったとしてもさすがにこれはなぁ………。なかなか攻めた店だな、ここ。
そうやってパフェの細部を見て驚いていると、千堂さんが大きめのスプーンを握っていた。
「じゃあ、いただきます♪」
「千堂さん、それ一人で食べれるの……?」
「はい、食べれますよ?」
マジでですか⁉︎
「いいですか、女の子は甘い物ならいくらでも食べれちゃうんですよ?」
すごい。
「でも、それかなりお腹に溜まりそうだよね。ふと……」
「太りません」
うおぅ、急に千堂さんが前のめりになった。
「太りません、女の子は甘い物を食べても太らないようになってるんです。だから太りません。大丈夫なんです」
そ、そっかぁ……この世の中には不思議なことがたくさんあるんだなぁ。
「な、なんかごめん……」
そういえば、前に真由に『少し太った?』って聞いたら
『お兄ちゃん、気のせいじゃない?目の錯覚じゃない?錯覚でもそういうのは女の子にはあんまり言わない方がいいよ?お兄ちゃん、そういうのは怒るよ?』
って真顔で言ってたような……。
そしてその翌日からジョギングを始めてたような気がする。
あれは……なんだったのだろうか?
よく分からなかったけど、なんとなく恐かったような気がする。
「では、このくらいペロッと食べちゃ……あ」
「?、どうしたの?」
「ア、アレ〜?コノリョウ、ヤッパリワタシニハオオカッタミタイデスネ〜」
「で、でも、さっきペロッって」
「多いんです」
「はい……っ」
千堂さんが急にスンッってなった……。
「十宮くんも食べませんか?」
「うん、食べる」
一人じゃ多いなら僕も喜んで食べるのを手伝おう。
普通の量だったら素直に美味しそうと言えるくらいには美味しそうだし。
「わ〜!良かったです!じゃあ……はい、あ〜ん」
……あ〜ん?
スプーンの上にチョコレートアイスとクリームとクッキーをバランスよく乗せて、千堂さんはそれを僕の方へと突き出した。
何かデジャヴのような……。
って、ハンバァーーーグ!
あれ?これって千堂さん家でもあったよね?あの時は終わってから急に少し恥ずかしくなったけど、今は普通に恥ずかしいんですが……。
「と、十宮くん……?」
ほんのり頬を赤くした千堂さんがスプーンを持ってプルプルしている。
「わ、わかった」
覚悟を決めて、あ〜っと口を大きく開けて……
「ボクがもらおうか」
バクっ
横から神谷先輩がさらっていった。
「あーーー!」
「むぐむぐ……ふむふむ……もぐ……悪くない」
「なにやってるんですか!」
「ほら、十宮君にもあげなくちゃ」
「そ、そうですね、では……じゃないですよ!これだったら先輩と十宮くんになっちゃうじゃないですか!」
「ふふっ、でもこのままでも、君は十宮君とできるよ」
何が!?
「ぐっ、ぐぬぬ……」
え〜と、それで、口を開けたままの僕はどうすればいいんでしょうか?
「分かりました……」
なにやら覚悟を決めた千堂さんはスプーンをパフェに突っ込み、一口分をすくった。
お、やっと僕の分が……
あ〜、と口を大きく開け………
「パクッ」
千堂さんが自分で食べたぁーー!?
「もぐもぐ……そう、……むぐむぐ……思い通りには、……もぐむぐ……いかないんですよ……ごくん」
「やられたよ。まさか肉を切らせて骨を断つとはね……」
何⁉︎
一体僕の知らないところで何が起こってるの⁉︎ただ神谷先輩と千堂さんがパフェ食べてただけだよね⁉︎
なんで一勝負終えたみたいになってるの?
結局僕は別のスプーンを使ってひと口貰った。
確かに味は美味しかった……が、この量はやっぱり多いんじゃないかなぁ?
そんな思いとは裏腹に、最終的にほとんど千堂さんが食べて完食となりました。
……えぇ、はい。
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