第6話 さすが先輩
友達とは一緒に帰るというのはどうやら空想上の話ではなく現実のことらしい。
お、おい、ちょっ、やめろ!
僕をそんな目で見ないでくれ。
閑話休題
というわけで僕は今、神谷先輩と一緒に帰っている。
先輩というのも、どうやら神谷先輩は二年生らしく(それにしては随分大人びているとは思うけど)呼び方は神谷先輩になった。
最初は‘神谷先輩’と呼んだ。そうしたら、
「友達だからもっと気楽に呼んでいいよ」
と言われたから、‘神谷さん’にして、
「もっとフランクに!」
と言われたから、‘那月さん’と呼んだら、神谷先輩はなぜか固まってしまった。そして顔を隠しながら、
「か、神谷先輩でいいかな?」
と言われた。
ということで結局元に戻って‘神谷先輩’になった。
「神谷先輩。帰る方向はこっちでいいんですか?」
「あぁ、大丈夫だよ。ボクの家もこっちなんだ」
「そうなんですね」
あれ?そういえば僕の家がこっちだって言ってたっけ?
たしか先輩の方が先に歩き出してたような……
まぁ、僕も普通に一緒に歩いてたから同じ方面だって思うか。
「というか十宮君。敬語じゃなくてタメ口でいいと言ってるだろう?」
「あぁ、まぁそうですね」
「ほら、また敬語使ってる!」
「あはは……」
年上の人にタメ口を使うのに慣れてないからやっぱりどうしても敬語になってしまう。
「友達なんだからタメ口じゃないとおかしいよ?」
「そ、そうなんですか……すいません、僕、友達とかいなかったので、そういうのに疎くて……」
「あぁもちろん知ってるよ」
え?
「し、知ってるんですか……?」
「え?あ!こ、これはだな、その、あれだ!友達になってと言った時にあまりにも喜ぶものだから、これはそうに違いないと思っただけだよ!そう、別に他意はない!決して!」
あぁ、そうだったのか。僕そんなに喜んでたのか。でも仕方がないよね。16年間友達がいなかったんだから。
「すいません、なんか変な思い違いをして」
「き、気にすることはないよ。だれにだって思い違いくらいあるよ」
あぁ、なんて心の広い人なんだろう。
「僕、神谷先輩と友達になれて良かったです」
「!そ、そうか、ボクもだ。……でもそう思うならタメ口にしてくれないかい?」
「で、でもいきなりなんて言えばいいか……」
「それじゃあボクが言った言葉を復唱してみてくれ」
おお、それならできるかもしれない。
「リピートアフターミー」
「リピートアフターミー」
「これは真似しなくていいよ」
「これは真似しなくていいよ」
「……じゃあ、このままいこうか」
「じゃあこのままいこうか」
「おはよう」
「おはよう」
「おい」
「おい」
「おやすみ」
「おやすみ」
「こいつ」
「こいつ」
あれ?タメ口ってこういうこと?
「さっさとパン買ってこいよ」
「さっさとパン買ってこいよ」
なんか方向性おかしくない?
「お前は僕の言うことだけ聞いてればいいんだよ」
「お前は僕の言うことだけ聞いてればいいんだよ」
多分これ違うよね⁉︎
「黙ってろよ」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「?どうしたんだい?次は黙ってろよだよ?」
「いや、なんか思ってたのとは違うなぁって」
「いや?これでちゃんと合ってるよ?ほら、じゃあ次いくよ」
「え、ちょ、ちょっと」
「おい、こんなこともできねぇのか?これだから使えねぇやつは」
「わ、分かりました!分かった!もうタメ口にするからやめっ!」
「?これからがいいところだったのに」
「いいところ?」
「あ!いやいやなんでもないよ!ほ、ほら、ちゃんとタメ口になってるじゃないか!」
「あ、本当だ。これも先輩の作戦だったんだね!」
「え?あ、そ、そうだこれこそがボクの作戦だったんだよ!」
さすが先輩、全部分かってたのか。
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