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このサイトでは、ランダムにマッチングした誰かと二人きりで会話をする事が出来る。
繋がる事が煩わしいと思えば一方的にその時間を終わらせる事も可能な仕様である。
そこが気に入っており、一定の気遣いなど無駄であるという所が何とも、良い、のだ。
赤と青、名前ですら自分で選択することは出来ず、色として。本日この時間、私の名前は赤である。
寝惚けた指先で、挨拶を打つ。
赤 こんばんはー
青 こんばんは
赤 私はアラサー、女です。
真実が曖昧で、そこに確証はない。
記号でしかない自己紹介に偽りを混ぜる程の余裕を今日は持ち合わせていないようだ。
画面を跳ねるみたいに右往左往する指が、頭の中の言葉を可視化する。
赤 あなたは?
青 46歳です。男です。おじさんですよ。
赤 46歳なんてお兄さんですよ!
青 何を言ってるんですか?私はOLです。
...?
この青は何を言っているのであろう。
おじさんでありOLである。落としたコインを拾う程度の良心で友好的な言葉を投げかけたのに、それは届かず画面の中心部分より少しだけ下に下がった。
赤 からかっています?
青 いえ、私は本気です
赤 ああ、そう。とっても不愉快です!
生憎私も本気です。
青 私は楽しくて仕方有りません。
赤 左様ですか、さようなら!
外れだ。少なくとも微睡む余裕の無いこの瞬間に、青と話す理由などないに等しい。
ただでさえ気持ちはささくれている。
画面右上、退室の文字を叩くように押そうとした矢先また文字が下へと下がる。
青 なんでそんな事言うんですか?
なんで?
赤 貴方がまともに話す気がないからでしょ!
青 話していますよ、私は。貴女こそ何を見ているんですか?
赤 青光りするスマートフォンの画面でしょうね。貴方はパソコンから?
青 ああ、念力です。
これはきっとおちょくられているのだ、青が下へと流す言葉にどんな意味ですら存在していない。
赤 馬鹿にしてます?w
青 いえ、本気です。
これでも、尚、本気という言葉を使う。悪く無いと歪に口角が歪み、鼻先では笑いがくすぶる。
意味が無いものの意味を、少し覗いてみたくなった。
持て余した時間を浪費して本位に近づけるのならばそれも面白いかもしれないと、好奇心なのだと思う。
青の、人、である部分を暴き出してやろう。
賭けである、勝負である、そう思うと途端に燃えてくるタチなのだ。
ルールはこうしよう。
彼?もしくは彼女の、素顔が見えたのならば私の勝ち。
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