第10話 高男子力男子と座席問題

 さて、『ドンだかバンだかわからないがとにかく大きな音』というのは、タイヤのパンクだった。道に落ちている釘でも踏んでしまったか、あるいは狙撃でもされたのか。音的に狙撃の線が有力な気がする。どう考えても有り得ない話だけど、起こってしまったものは仕方がない。

 

 僕らは車から降り、路肩にしゃがみ込んで、男子力の黒部ダム、細川ささめかわ君が慣れた手つきでてきぱきとタイヤを交換しているのを黙って見ている。

 そこへ、須磨先輩の車が通りがかって「大丈夫かい、君達!」という声だけはかけてくれた。彼の車が2シーターのオープンカーじゃなかったら、先輩の車にこの『かしまし娘』を押しつけるところなんだけど。

 

 ていうか、河原でBBQだっつってんのに何でそんな車で来たの? いや、別にその車が悪いとかじゃないけど、1人しか乗せられないのに「あっ、僕車出しますよ」ってよく挙手出来たよね。そんで隣に座ってるの社長石やしろながし係長だし。地獄のドライブデートだよ。


 だけどさすがに何かしないとと思ったのか、


「もし良かったらこれ、使うかい?」


 って、使用感0のぴかぴかのクロスレンチを差し出してきたけど、使い込まれた細川君のそれを見て、すごすごと引っ込めた。

 係長も係長で「ここは私の出番じゃないかね……?」なんて恰好良いこと言って財布からJAFのカードを取り出そうとしてるけど、あの、すみません、もう終わったみたいです。


「行くぞ」


 そして、このしびれる短文。

 それを聞いて、万年係長を乗せたオープンカーは「じゃあ僕らは先に」と言って行ってしまった。かしまし娘達もきゃあきゃあ言いながら車に乗り込む。


 ……と思ったら、白井さんが、ガッと僕の腕をつかんだ。


「ねぇ、私、前に乗りたいんだけど?」


 って、とびきりの笑顔で。

 嘘です。目だけは笑ってません。


「あ、それじゃ、僕後ろに行くんで……」


 その圧力に負けて後部座席に乗ろうとしたその時である。


「待て」

「……はい?」

「林は前だ」

「え? でも……」


 ちらり、と白井さんを見る。

 ちょっとどうにかしなさいよ的な目で僕を見ている。無理です。


 が。

 

「助手席が一番危ない。男が乗れ」


 この言葉だ。

 この言葉で、白井さんがくらりと眩暈を起こした。あの額に手を当ててふらっとするいかにもなやつだ。

 

 さすが。

 さすがは男子力のK点越え、細川君だ。


 ただ、どう見ても僕より白井さんの方が――いいえ、何でもないです。



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