第8話 高男子力男子と車内にて

「おう」


 皆さん聞きましたか?

 第一声がこのぶっきらぼうな「おう」一言。「ちぃーす」とかじゃないんですよ。かといって「おはようございまーす」とか「お疲れ様でーす」でもない。ただ一言「おう」。この潔さ。第一声から加点ですねこれは。


 どうやら細川ささめかわ君の家と僕のアパートは近いらしく、彼は、一番に僕の所へ迎えに来てくれたのである。


「おはよう、細川君。今日はお願いします」


 あ、ちなみに僕と細川君は同期だったりする。おかしいよね。筋肉量なら完全に向こうが先輩っていうか、もうむしろお父さんとかなんだけどね。びっくりするほど同期なんだ、僕ら。


 で、後ろの席に乗り込もうとすると――、


「前だ」


 これね。

 良いの? 僕なんかで。

 助手席っていったらあれでしょ? しかるべきタイミングでおにぎりのビニール破ったり、眠気覚ましのガムを渡したり、ペットボトルの蓋を開ける役でしょ? そんな女房役とでもいうべきポジションを僕に任せて良いの、細川君! これBLじゃないからね? 


 とまぁお遊びはこれくらいにして、僕は助手席に乗り込んだ。

 ちなみに細川君は煙草を吸わないし、この車も禁煙車だ。一昔前は煙草=大人の男みたいなイメージもあったし、正直僕もそう思ってたから細川君が吸わないと知ってちょっと驚いたものである。


 ――え? 

 じゃあ減点なのかって?

 うーん、まぁ確かに、煙草を咥えて運転するのも細川君ならちょい悪な感じですごく恰好良いと思うんだけど――、


 彼は別のもの咥えてるからさ。


 ――え? 

 何を咥えているのかって?

 そりゃもちろんアレだよアレ。

 細川君くらいの男子力侍になると、煙草なんてそんな細いもんじゃ駄目なんだよ。


 サラミだよサラミ。

 サラミ咥えて運転してるんだ、この人。

 アレちゃんとビニール剥がしたのかなぁ。僕、剥がすの忘れて「へぇ、サラミの皮って結構厚いんだなぁ」って10回中9回はやらかしちゃうんだけど――って、ああ、まぁ細川君なら関係ないのかな。


 とりあえず、他のメンバーを迎えに行く車内は、肉々しい香りに包まれまくっていだけど、これから肉を焼くわけだし、まいっか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る