第3話 高男子力男子と紙詰まり

「やだ、コピー機また詰まっちゃった」


 女性社員のその言葉は、云わば男子力の抜き打ちテスト。


 す、と音もなくスマートに立ち上がったのは須磨すま先輩だ。

 彼は身体の厚さこそ細川ささめかわ君に負けているものの、そのややもすればちょい女子寄りの肌理きめ細やかさで華麗に女性社員をサポートするという、男子力とはまた別の分野で躍進する人物である。


「白井君、大丈夫かい? 君が心配だ」


 大方の予想通り、今回もまずは女性社員へのフォローから入った。大丈夫じゃないのは白井さんではなくコピー機ですし、あなたの頭の方が心配です、先輩。

 あぁもうほら、白井さんも微妙な顔だ。たぶんいま詰まってるやつ、結構重要な書類なんだろうな。愛想笑いを浮かべつつも、ちらちらとコピー機を見ている。たぶん、何でも良いから早く何とかしろって思ってる顔だあれは。


「どいてください」


 来た――――!!! 真打ち登場! 細川君だ! ちょっと待って、手に持ってるの何!? 

 

 工具箱!?

 工具箱だよあれ!


 全く細川君は油断出来ない。ここは経理課なのに、何をどうしたら工具箱が必要になるんだ! そもそも紙詰まりだよ?


 もう細川君の男子力が凄まじい。

 工具箱の中身が明らかに使い込まれているのも加点ポイントだ。一時も目が離せない。

 その油の染みは何なんだ。

 そのバールのようなものを何に使う気だ。

 もっかい言うけど紙詰まりだよ?


 そうしてあっという間に白井さんが詰まらせた紙を取り除き、果ては軽くクリーニングやメンテナンスまで済ませた細川君は、工具箱にしまい忘れたプラスドライバーを尻ポケットにねじ込んで去っていった。それくらい箱に戻せば良いのに。


 白井さんはお礼を言うのも忘れ、その後姿をほうっと見つめている。


 白井まゆみ。経理課一係の(下から3番目くらいの)マドンナ(33)を落とした瞬間である。

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