桜の記憶

「探すって、まさか……人間になる方法をか?」


「もちろん」


 大きく首肯する桜に、呆れたため息をつきながら。


「お前、それはあからさまに無謀だろ……。そもそも悪魔が人間になるなんて、それこそファンタジー世界の話だぞ? 現実的に不可能だ」


 俺は、そう言葉を返した。


 辛いことだが、これが事実だ。


 桜が真の人間になれるなんて到底あり得ない。


 しかし、言われた本人はへこむ様子もなく胸を張ると、無駄に堂々とした態度で反論を口にしてきた。


「そんなのわかんないじゃん。現に悪魔のあたしがここにいるし。俗に言う生き字引だよね、これ」


「は?」


 最後の一言の意味がわからず、疑問の呟きを漏らす。


「……ん? 違ったっけ? 生き字引……いき……消沈? あれ?」


「……生き証人か?」


 何となく、言わんとすることに見当をつけて訊ねる。


「あ、そうそれ。生き証人。あたしが生き証人」


 コクコクと何度も頷きながら、得意そうに笑う桜。


「存在しないあたしがこの世界にいるんだから、そのあたしを人間にできる人がいてもおかしくないでしょ?」

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