桜の記憶

「だって、あたしこのままじゃちゃんとした居場所見つけることできないし。探してた記憶も帰る場所も全部嘘で、存在そのものが今は曖昧でしょ? だから、みんなと同じ人間になれたら、この世界でも普通に暮らせるようになるんじゃないかなって」


 捲し立てるように話し、桜はこちらの反応を窺う。


「気持ちはわかるけど、別に今そこまで気にしなくて良いだろ? 大体、人間になる方法なんかあるのかよ?」


 あくまでも、桜は人間が創り出した設定でしかない。


 それが本当の人間になるというのは、かなり無理がある。


 というか、不可能だろう。


 そんな俺の思考を見透かすように、桜はおもむろに人差し指を立ててみせてきた。


「それがね、一つ方法があるの。思いついたの、あたしが自分で。自力で」


「……いちいち強調すんなよ」


 どうでも良い部分だが、釈然としないので指摘しておく。


 だがしかし、やはり本人としてもどうでも良いことだったらしく、さらりと聞き流して話を続けてきた。


「要は、探せば良いと思うのよ。今までみたいに」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る