桜の記憶

「何が人だよ、悪魔のくせして」


 半眼でぼやくと、今度は桜がこちらを睨む番だった。


「揚げ足取るなら、白峰さんに言うからね」


「言うって、何をだよ?」


 心当たりのない脅迫に、自然と訝しげな表情を作ってしまう。


「何か適当に。雄治の記憶から人に知られたくない秘密とか盗むから。それ教える」


「……まさに悪魔じゃねぇか」


 ぶすくれたように宣告する相手へ忌々しさを込めた視線を送りつつ、舌打ちを鳴らす。


 そんなこちらの反応を楽しむように笑うと、桜は不意に真面目な顔に戻り地面へ瞳を逸らした。


「……?」


 突然どうしたのかと不思議がるこちらの胸中を焦らすように、しばらく会話が途切れる。


 肌に心地よい秋風が吹き抜けていくなか、沈黙を纏いつつ並んで歩く。


 やがて、遊歩道のちょうど真ん中あたりまできた頃に、再び桜は口を開いた。


「……ねぇ、雄治。ずっと考えてたんだけどさ、あたし、人間になれないかな?」


「……は?」


 ぎこちない面持ちで俺を見る少女へ、つい間の抜けた声をあげる。

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