桜の記憶

「いや普通におかしいだろ」


「何でよ~? あたしをこの世界に呼べる能力者がいたんだよ? だったら、あたしを人間に変える能力者がいても良くない?」


「……能力者?」


 胡散臭げな目線を向けていた俺の瞼が僅かに上がる。


「片桐とは別の能力者を探すってことか?」


「そうそう。他にもそういう特別な力を持ってる人、いてもおかしくないと思うわけ。やっと理解した?」


 小馬鹿にするような言い方は気に入らないが、俺は桜の提案をあらためて吟味してみる。


 片桐は普通の人間にはない能力を持っていた。


 極めて特殊なことなのだろうが、それは確かだ。


 となれば、この世界のどこかに同じように特別な能力を秘めた者が存在しても、今更否定はできない。


(対象を別の固体に変化させる能力者……)


 桜が探そうと提案したのは、そういった力を有する者か。


 当然ながら、聞いたこともない。


 都合良く出会える確率など、ゼロに近いのではないかと思える。


 よく使われそうな言葉だが、砂漠の中に落としたたった一つのビーズを探すようなものではないのか。

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