桜の記憶

「お前が桜に施した設定は、全部無くなった。今なら問題なく攻撃できるぜ」


 余計なしがらみは無くなり、今の桜を存在させているのは桜本人に関する個人的な設定のみ。


 片桐への攻撃はもちろん、能力の行使も自由にできる。


 悪魔少女が伸ばした腕が、片桐の頭をしっかりと掴む。


「ふ……ふざけるな!! お前を創ったのは僕だぞ!? たかが設定の分際で――!!」


 何をされるのか察した片桐が、桜の腕を引き剥がそうと必死にもがく。


 しかし、それで彼女の手が離れる気配は全くない。


 人間よりも遥かに上の身体能力と力。


 自分自身が考えた設定に、彼は追いつめられていた。


「あたしは、消えるなんて嫌。もっと生きてたいし、雄治たちとも一緒にいたい。だから……、あたしはあなたの思い通りにはなりたくない!」


 成長した子が親に反発し自立しようとするように、桜ははっきりとそう意志を投げつける。


 記憶を無くし、自ら打開策を模索するという設定の元に生み出された悪魔の少女。


 冷静に考えてみればそれは、自ら成長する資格を与えられていたとも受け取れる。

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