桜の記憶

 無視してしまっても良かったのだが、一応確認しておくことにする。


 でなければ、今後ふとしたときに思い出しては今確かめなかったことを後悔しそうな予感がした。


「ニャンダバー? ニャットっていう動物を使った食べ物で、ニャットの生皮と心ぞ――」


「……あ、もう良いや。それ忘れろ」


 予想外にグロそうな単語が飛び出したため、俺は即座にニャンダバーとその真裏に位置する攻撃制限の書かれた箇所を千切り取った。


「……ん? あれ? 何の話だっけ?」


「夢のない話だったよ」


 千切られた部分の設定が消え、首を傾げる桜に適当な返しをして、俺は残った桜の設定をポケットへしまった。


 それから、彼女の持っていたライターを受け取り、手帳本体に火をつける。


 片桐は目の前に群がる小さな敵に視界まで塞がれ、もはやこちらの行動を把握できないでいる様子だった。


 火がついたメモ帳はみるみる炎に包まれ、半分ほど燃えたところで手を離し下に落とす。


 やがて、目の前に立っていたガーディアンの姿が薄れて消え、片桐の周りを蠢き回っていたサンドワームたちも消滅していく。

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