桜の記憶

「――!? 何をする気だ!!」


 こちらに気づいた片桐が、悲鳴に近い叫び声をあげた。


 強引に近づこうと足を動かすも、新たに現れた鳥や狸――この山に狸まで生息しているとは知らなかった――が邪魔をする。


「ちくしょう! いったいどうなってんだこいつらは!?」


 もはや片桐の周りは常軌を逸した光景に変わり果てていた。


 僅か一、二分で山中に生息している生物の大半が彼の周りに集結してきているのだ。


「ざまぁみやがれ」


 俺が桜に伝えた作戦は、シンプルな内容だった。


 桜は片桐の能力により、直接攻撃することは絶対に不可能。


 ならば、“間接的”に戦えば勝機があるのではないか。


 幸いなことに、ここは山の中で季節はまだ初秋。


 夜行性の鳥類やネズミなどの小動物も活動している時期だ。


 以前、桜は人間以外にも記憶操作の能力は有効だと話していた。


 ならば、片桐ではなくこの山に住む他の動物たちを利用し、攻撃を仕掛けさせれば。


 倒し切ることは無理でも、例の手帳だけでも奪い取れれば形勢逆転のチャンスは訪れる。

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