桜の記憶

 忌々しさを舌打ちでごまかし、桜と身体を離す。


 自分の役割は片桐の足止め。


 もしあいつの考えが変わって直接桜を消したり設定を変えることがあれば、それはそれでゲームオーバーになる。


 そうならぬよう見張りつつ、時間を稼ぐことが俺にできる精一杯だ。


「つっても、やることが決まったんならうじうじしてらんねぇよな。絶対成功して勝ってやろうぜ」


「うん!」


 小さいが力強く頷く桜を見て、俺は口元を緩めた。


 次に桜と再開するときは、このアンフェアな戦いに終止符を打つときだ。


 そう信じて。


「……よし、やるか」


 廃墟の方角へ首を向け、短く息をつく。


「雄治」


 覚悟を決めた俺の背に、少女の声。


「……また後でね」


「……ああ」


 再開の約束はそれで十分だった。


 こちらの返事を聞くと、桜は意を決したような一瞬の間をおいて闇の中へ、ガーディアンたちの蠢く死地へと駆けて行く。


 それを一瞥して見送り、俺も走り出す。


(成功してくれよ、絶対……!)


 無限に沸き上がる不安を必死に堪えて。


 頬を掠める枝葉に目を細めつつ、今はただそれだけを願った。

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