桜の記憶

 ガーディアン達が森に入ると同時、バサリという何かが枝葉の間を突き抜けるような音が聞こえた。


 何事かと音のした方向――桜が走り去った先の上空――を見やると、そこに悪魔少女が浮かんでいた。


「……桜」


 地上を逃げることは不利だと、認知したのだろう。


 桜の背中には、始めて会ったときに見せられた黒い翼が現れていた。


 その手があったかと、胸中で歓声をあげる。


 空を飛べば、ガーディアンからは逃げ切れるかもしれない。


 おぼろ月に重なるようにして翼をはためかせる桜。


「なるほど、空に逃げたか。でも、それも駄目だ」


 いつの間にかさらに近づいてきていた片桐が、無慈悲な呟きを発した。


「ガーディアンは、対空戦もできるんだよね」


「何……?」


 再び、枝葉を掻き分けるような音が鳴る。


 慌てて振り返ると、一体のガーディアンが桜同様上空に飛翔したところだった。


 その背中には、機械化された翼。


「嘘だろ……」


 背後へ迫る気配を察して、桜が身を捻るのがシルエット越しに見えた。


 そして、そのタイミングに合わせるように。

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