桜の記憶

 不条理。


 一瞬で、何もできぬまま追い詰められて、頭に浮かんだのはただそれだけだった。


 桜は片桐の創りだしたキャラでしかない。


 この際、その事実を受け入れても良い。


 というか、受け入れるしかないのだろう。


 ただそれなら、せめて能力を解除して普通に消すだけでも良いんじゃないのか?


 ここまで一方的にいたぶって、そして殺すことに何の意味がある?


「記憶を無くした悪魔少女が、異世界で殺され一人寂しく散っていく。そんなストーリーを展開するのも楽しくないかな? 救いのない物語としてさ」


「何……?」


 ゆっくりとこちらに歩み寄りながら、片桐が上機嫌に告げてくる。


「長沢くん、きみはサクラを気に入ってくれているのかい? だとしたら、創り手としては嬉しいな。ありがとう。でもね……」


 ちょうど五メートルくらいの距離を置いて、片桐は足を止めた。


「申し訳ないけど、そのサクラは初期設定のキャラなんだ。言わば、試作段階。ほら、よくあるだろ? ゲームやアニメなんかの設定資料集とかでさ、登場キャラの初期デザインを描いた絵とか。見たことない?」

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