桜の記憶

 片桐の言葉通り、ガーディアンの狙いはあくまで桜一人のようで、助けに走る俺を意識する気配はない。


 この絶望的な状況の中では数少ない救いではあるが、俺のことを敵視させたところで戦況を掻き乱せるわけでもないためあまりに心許ない。


「おい、桜! しっかりしろ!」


 悪魔少女は、打撃を受けたのだろう左の脇腹付近を手で庇っていた。


 頬に触れ、一瞬身体が固まる。


 手に、自分のものとは違う生ぬるい感覚がまとわりつく。


「……雄治」


 喘ぎながら顔を上げた桜の口元は、やはり赤く染まっていた。


 ひょっとしたら、肋骨が折れてしまっている可能性がある。


(こんなの、一方的過ぎんだろ……!)


 ガーディアンの強さは、狼男などとは比較にならない。


 片桐は本気で桜を抹殺しようとしている。


「片桐ぃ!!」


 小刻みに震える桜の頭を胸に抱えるようにしながら、俺は声を張り上げ敵をねめつける。


「何のためだ!? 何でここまでして桜を追い詰める必要がある! 昨日のアスカみてぇによ、普通に召喚を解除だってできんだろ!? 何でわざわざ殺すんだよ! ふざけんな!!」

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