桜の記憶

 刹那、背筋が粟立つような感覚に襲われる。


 脳が身体に命令を下すより早く、俺は前に立つ桜の肩を抱き横へずらした。


 間隔的には、一秒すらかからなかっただろう。


 桜が立っていた空間を、ガーディアンの持つ剣が縦に切り裂く。


「――ぐぁっ!?」


 すぐ耳元で風切り音が聞こえたと同時に、右側頭部に激痛が走った。


 堪らずうずくまり痛む場所を手で押さえると、ぬめっとした生暖かい感触が手のひらに伝わる。


「――雄治!!」


 こちらの異変に気づいたか、桜が慌てたように背中に手を回してきたのがわかった。


 だが、それを気にする余裕はない。


 手で押さえた場所は右の耳。


 こうして触れた感触で嫌でも何が起きたかわかってしまう。


(冗談だろ……っ)


 右耳の一部が削げ落ちている。


 今の一撃を避ける際、持っていかれたか。


 ジクジクとした経験のない痛みに涙が溢れてくるが、だからと言って泣いていられる余裕もないのだ。


「桜、一旦逃げろ! あいつの言うことが全部本当なら、今のお前に勝ち目ねぇ!」


 必死に寄り添う桜の身体を押し返し、立ち上がる。


「でも……」

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