桜の記憶

「ここまで説明してまだ納得できないのかい? きみの記憶は僕の創った紛い物。そして、きみ自身も僕によって生み出された偽りの命だ。きみはただの創作物にすぎないんだよ。今日まで記憶を探してきた? そんなの見つかるわけがないだろう、元から存在しないんだから。きみはただ、僕が用意した記憶を探すという行動を能動的にこなしていたにすぎない。きみの意思なんてどこにもないんだ」


「嘘! あたしはそんな作り物じゃない!」


「あ、――桜!」


 叫びを合図に、まるで射出するかの如く飛び出す桜。


 そのスピードは、昨夜狼男と戦闘を行ったときの速度を越えている。


 ガーディアンの横をすり抜け、真っ直ぐに片桐へ距離を詰めていく。


 二人の間合いがゼロになり、そのまま桜は右手を片桐の頭部へ伸ばす。


 これが本気の一撃であれば、人間である片桐は到底耐えられるものではないだろう。


 勝負は、呆気ないほど一瞬で決まる。


 と、そう確信しかけたのだが、事態は単純に片づいてはくれなかった。


「……え? あれ? 何で……」


 桜が伸ばしたその右腕は、片桐に触れる直前で動きを止めていた。

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