桜の記憶
「もっとも、僕はきみを素直に戻すつもりはない。どうせ消すなら、一度くらいバッドエンドなストーリーを楽しんでみるのも面白そうだ」
「……なんなの?」
囁くような声が、桜の口からこぼれ出た。
「ん? 何て言った?」
聞き取れなかったらしい片桐が、怪訝そうに首を傾げる。
「結局、あたしはなんなの? あたしは自分の住んでいた世界に帰りたい。ハデスっていうここじゃない別の世界があって、確かにあたしはそこで産まれて暮らしてた。その記憶は、ちゃんとあたしの中にある。これは嘘や偽物なんかじゃない」
「……」
「雄治と出会って、今日までずっと一緒に元の世界へ戻る方法を探してきたの。これはあたしの意思だよ。あなたなんか関係ない」
強く睨み付けるような眼差しを、桜は片桐に向ける。
ここまでの話を聞いてショックを受けるか困惑するくらいのことはしてるかと思っていたが、まだ本気で信用しているわけではないようだ。
「……ねぇ、あたしはなんなの? 本当のことを話して」
「困った子だな、きみは」
短く息を吐き、片桐が小さく首を横に振った。
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