桜の記憶

 得意気にネタばらしをする彼の顔は、どこまでも平然としていた。


 薄い笑みだけを浮かべ、緊張感など微塵もないという風に唇を動かす。


「昨夜の獣人や今消したドラゴン、そしてガーディアンもこの物語に登場するキャラクターの一部。そこから、獣人に関するプロットを書いたページだけを破り、火を点けた」


 そこで一度言葉を切り、片桐は俺と桜の反応を窺う。


「まず、メモ帳から破り取られた設定は、孤立して元の世界観からも切り離される。つまるところ、獣人やドラゴンというキャラクターの設定だけがそのまま残り、ハデスの住人であるとかの他の設定が無くなるわけ」


 つまり設定を取り外し、ひとまず保留にしている状態。


 指をタクトのように揺らしながら、そう説明は続く。


「そして、火を点けて燃やすということは設定を削除するのと同じこと……、ここまで言えばもう自分で想像できるかな?」


「……書かれた設定を消し去れば、その内容も一緒に消えるってことか?」


「グッドだ。昨夜は獣人に関するプロットを、そして今はドラゴンに関するプロットが書かれたページを破って燃やしただけ。設定が無くなれば、存在も消える。単純な話だろう?」


 答えを知れば確かにその通りだとは思える。

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