桜の記憶
昨夜同様くしゃくしゃに丸めたその紙に、そっとライターの火を近づけた。
火は紙に燃え移り、瞬く間に全体に広がっていく。
片桐が自分の足元に放り投げた紙片は、見る間に黒い灰に変化していく。
「――!?」
それと同じように。
片桐を守るように立っていた翼竜の姿が残像のように薄れ始めていた。
「これだろ? きみが言ってるのは」
背後に付き添う翼竜をどうでも良さげに見上げ、片桐は言う。
やがて、倒れ伏していた狼男と全く同じように、翼竜の姿は紙が燃え尽きるのに合わせて消失してしまった。
「簡単なカラクリだよ」
どう反応すべきか迷う俺に、片桐は肩を竦めながら話を進めてくる。
「僕の能力は、頭で物語を考えるだけでは駄目なんだ。こうして何かしらに書き込んでいかないと」
言いながら、パラパラと手帳を捲ってみせる。
「この手帳には、サクラという悪魔少女が記憶を無くしたまま異世界に飛んでしまい、自分が異世界に来た理由や元の世界に帰る方法を探して奮闘する物語のプロットが書いてある」
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