桜の記憶

「サクラは本が好きみたいだったけど、それはきっと本という媒体に共感意識みたいなものを持っていたんだろう。どちらも人の手によって創られた、架空のキャラクターだからね」


 言葉を無くす俺の耳に、片桐の種明かしが無情に突き刺さる。


 こいつの言うことが本当なら、俺はずっと一人で創作の能力とやらに振り回されていたってことになるのか。


「……それじゃ、お前やそいつらに桜の能力が通じないのは何故だ?」


 ガーディアンを一瞥しつつ、なんとか疑問の一つを放り出す。


「そんなの、設定でいくらでも。ドラゴンは記憶を操作する能力に耐性がある。ガーディアンは自分より弱い相手の能力を無効にできる。稀有な性質変異が起こり、物理攻撃能力以外を受け付けなくなった獣人。そして、全ての登場人物たちは創作者に一切の攻撃はできず、仮にしても無効になる。……ってな感じで」


「……それなら昨日狼男を消したのは? あれもお前の能力だって言うのか?」


「ああ、そうだよ。能力と言うのか微妙だけど」


 頷くと、片桐はおもむろに手帳を一枚破り取った。

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