桜の記憶

「いたら悪いか? 桜の記憶探しに付き合う約束してるからな。今更見捨てられるもんでもねぇし」


「……へぇ。一つ訊くけど、サクラと一緒にいてわがままだなって感じたことない?」


「あ? ……んなことしょっちゅうあったけど、それが何だ?」


 質問の意図が掴めず、つい眉間に皺が寄る。


「いや、何でも。ちょっと気になっただけさ」


 意味深な笑いを浮かべて、片桐は翼竜の前へと移動する。


 すると翼竜は、まるで主を守護するかのように、その巨大な翼で片桐を包み込む。


「サクラ……きみの疑問に答えよう。無くした記憶、この世界に訪れた理由。元の世界に帰る方法。そして、きみが本当は何者なのか」


 身体を覆う翼の奥で、片桐は淡々と話を先に進める。


「それどういう意味? あたしはあたしでしょ?」


 問いを投げたのは桜だ。


 油断なく相手を見ながら、いつでも動きだせるようにと身構えている。


「そう、サクラはサクラだ。異世界、ハデスからやってきた心優しい悪魔の少女」


 まるで台本を読むかのような言い回しをして、片桐はピタリと口の動きを止める。

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