桜の記憶

「またかよ……」


 片桐もそうだが昨日の狼男も桜の能力は通じなかった。


 これはいったいどういうことなのか。


(能力を打ち消す能力でも持ってやがるのか?)


 だとしたら、圧倒的にこちらが不利だ。


 おそらく、この目の前の翼竜はあくまで敵の一部。


 こいつを倒せたとしてもそれで終わりなんてことはあり得ない。


「こんばんは。良い夜だね」


 突然聞こえてきた声に、思わず身を竦める。


「途中までは歩いてきたんだけどね、面倒になったから山に着いてすぐにこいつを呼び出して利用しちゃったよ。意外と便利だ」


 最初、翼竜が話しているのかと思いかけたが、すぐに錯覚だと気づく。


「サクラ、ちゃんと来たんだね。嬉しいよ」


 翼竜の背中に乗っていたらしい。


 片桐が笑いながら姿を見せた。


「てめぇ、ずいぶんな挨拶してくれるじゃねぇかよ」


 そんな相手を睨みつけ、俺は虚勢で言葉を投げつける。


 すると、片桐は少しだけ首を動かしこちらを見、呆れたように息を漏らした。


「きみも一緒か。あれくらいかわせると思ったからね。ていうか、どうしてきみまで来たの?」

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