桜の記憶

 散々飲み食いした張本人を横目で睨みつけ、ふざけた提案を切り捨てる。


 それでも、こういう普段通りの軽口をたたかれると幾分気が紛れるのも事実だった。


「女のくせに大食漢な奴がいたせいなんだけどな」


「女の人だって自由に好きなだけご飯食べて良いと思うけど。差別じゃん」


「うるせぇ」


 無駄口をたたき合いながら、徐々に闇を帯び始めようとする空の下を歩く。


 これから無事に目的を果たせたとして、その帰り道に自分の隣を歩く者はいるのだろうか。


 ふいに、全てが終わって、一人きりで帰路につく姿を想像しそうになり、俺は深く考えぬよう努めながら桜と並び歩を進めた。

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