桜の記憶

「黙ってても?」


「ああ。お前の我がままや束縛から解放される」


 意地悪く口元を歪めて笑ってみせると、桜はすぐにむっとした様子で目を細めて睨んできた。


「別に我がままも束縛もしたつもりないけど?」


「それは自覚がないからだろ」


 さらりと言い返し、俺はもたれかかっていた幹から背中を離す。


「何にせよさ、そんなこと心配する余裕あるなら自分の身を心配しろよ。お前は確かに強いかもしんないけど、それで痛い目をみない保障なんてどこにもないんだしさ」


 側に立つ桜へ一歩近づき、ポンとその肩を優しく叩く。


「それくらい、言われなくたって……」


 大人に注意され拗ねる子供のようになりながら、桜はもごもごと言葉を返してくる。


「昨日だって、あの狼男に油断して脳震盪おこしてたんだから、今回はきっちり気持ち作っていかないとな。相手の態度からして、何かお前を倒す手段を用意してる可能性もかなり高いと思うしよ。または、弱点を知ってるとか」


 桜の弱点が何なのかは俺にはわからないが、あの男なら知っていてもおかしくなさそうだ。

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