桜の記憶

 考えだせばきりがない推測を口にしながら話し相手の顔を見ると、桜は何故かぽかんとしたようにこちらを見つめていた。


「……何だよ?」


「狼男って何のこと?」


「は?」


 一瞬、言われた意味がわからず脳内にはてなマークが浮かび上がる。


 昨夜あんな派手に戦闘をしておいて、何をとぼけたことを言いだしているのか。


「何のことって、えっと……ああ、獣人って言った方が正しいんだっけか? そいつと戦ったときのことを言ってるんだよ。頭蹴られておもいっきり吹っ飛んでただろうが」


「獣人? あたしそんなのと戦った覚えないけど。そういう夢でも見たの?」


「はぁ?」


 今度はさらに間抜けな声が出てしまった。


「いやいやいやいや。お前ここにきてそんなボケかましてくるか。あのな? 俺はこれでも真面目に心配して話してるんだぞ? もう少し真剣に聞いとくとかしろよ」


 どこまで危機感が薄いんだこいつは。


 一気にげんなりとした気分になりながらため息を吐くと、桜もまた眉を顰めながら反論をしてきた。

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