桜の記憶

「まさかお前が別れを惜しむような素振りするとは思わなかったわ」


「え?」


「いや、俺はてっきり片桐とかいうやつの言葉に萎縮か何かしてるもんだと思ってたからさ」


 いろいろと真実は知りたい。


 でも下手したら今夜、自分が殺されるかもしれない。


 そんな葛藤が原因でいつもとどこか様子がおかしくなっているのかと憶測していたのに、全然見当違いだった。


「それは、雄治にはたくさんお世話になったから。もしこのまま元の世界に帰るような展開になったら、あたし何もお礼とかできないし……」


 半分こもった小声で呟き、罰が悪そうに目を伏せる桜。


 そんな彼女の思いがけない仕草に、俺はつい笑いそうになる。


「……桜、お前ほんとに悪魔か?」


「ん? どういうこと?」


 からかったつもりだが、どうやら通じなかったらしい。


 チロリと視線だけを上げ問い返す桜に含み笑いを浮かべ、俺は小さく首を振りつつ肩を竦める。


「別に。てか、気にしなくて良いぞ。お礼なんて黙ってても貰えるから」

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