桜の記憶

「うん、まぁね」


 返答にまごつくかと思いきや、意外とあっさりと首肯して桜はこちらを振り返った。


「どうするつもりか、決めたのか?」


 慎重に、しかし平静を装いながら俺は問う。


 近くにベンチでもあれば座りながら少しは落ち着いて話もできるのだが、生憎この近辺でそんな物を見かけた記憶がない。


 仕方なしに、道端へ寄り桜の幹に背中を預けた。


 それを追うように、悪魔少女も側に近づく。


 そして、ゆっくりと顔を上げ葉桜をその瞳に映した。


「ねぇ、雄治。この木に咲く花って凄く綺麗なんでしょ?」


「は? あ、ああ。まぁ、綺麗だよ。日本の象徴みたいな花だし、たぶんたんぽぽと同じくらいには知名度のある有名な花だぜ」


 いきなり何を話し出したのかと訝しく思いつつも、とりあえず思いついたことを答えておく。


「桜の花……。今お世話になってる家にここの木に花が咲いてる写真があってね、それを見たときにあたしちょっとだけ嬉しくなったんだ」


 揺れる枝葉の間から降り注ぐ木漏れ日に、スッと桜は目を細める。

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