桜の記憶
再び指を動かしかけて、俺はピクリと眉をしかめた。
階段をリズミカルに上がってくる足音が耳に届く。
一瞬、姉貴かと思ったが違和感がある。
誰か客でも訪ねてきたのか。
訝しく思いつつ部屋のドアへ視線を向けていると、足音はその向こうでピタリと止んだ。
それと同時に、勢いよくドアが開かれる。
そして、
「やっほー」
元気に手を挙げ入ってきたのは、まさに今電話をかけようとしていた相手だった。
「……どうしたの? 鳥が何かくらったような顔して」
「は?」
おそらく鳩が豆鉄砲をくらったと言いたかったのだろうが、いきなり現れた桜に面食らい脳の回転が鈍ってしまい瞬時に反応ができなかった。
「どうしたんだ、いきなり?」
まさか、このタイミングで桜から訪ねて来るとは想定の範囲外だ。
「どうしたって、用があるから来たんでしょ。ご飯、もう食べたの?」
「……あ、ああ。今済ませたとこ」
「そっか。じゃあちょうど良いや。少し付き合ってくれない? 話したいこととかあるから」
「話?」
何となく、と言うかほとんど直感的に昨夜のことだと把握する。
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