桜の記憶

「雄治、悪いけど少し離れてて。あくまであいつの狙いはあたしみたいだから、一緒にいたら危ないかも」


 だったら連れてくんなよと咄嗟に批難したくなったが、最早そんなことを言える心境でもない。


「あ、相手は化け物だろ? 大丈夫なのか?」


 こちらを掴んでいた桜の腕から離れつつ、そう声をかける。


 無意識に、吐き出す声も強張ってしまう。


 スピードもパワーも人間の比ではない相手だ。


 さらにはこちらの能力も通じない状況である。


 桜一人で、対処法など果たしてあるのか。


 そんな心配を抱きながら横顔を覗くと、


「問題ないよ。あたしの方が強いはずだから」


 という笑顔の返答が返ってきた。


「は? ……いやいや、さすがにお前それは――」


 事態を軽く見すぎだろう、そう言いかけた瞬間。


 また狼男の姿が消えた。

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