桜の記憶

 同時に、桜が上を見上げて両手を合わせるように突き出した。


 刹那――。


 強烈な打撃音が響き、桜の身体が僅かに沈む。


 またもや飛び上がっていた狼男が、落ちる勢いを利用し桜の頭部に拳を振り下ろしていたのだろう。


 それを予知した桜は拳をガード。


 そしてそのまま狼男の手を握り締めると、地面に向かって叩き付けるようにぶん投げる。


 しかし、相手も素直に攻撃を受けるわけもなく。


 かなりの勢いで投げ落とされたにも関わらず、途中で器用に体勢を整えると着地するように足でコンクリートへの衝撃をうけてみせた。


 ダンッという強い衝突音は鳴り響くが、特にダメージもなさそうに直立し、奴は平然とこちら側を見上げてくる。


「雄治はここで大人しくしてて。ちょっとやっつけてくるから」


「あ、おい――」


 拳を受け止めた両手をぷらぷらさせながら告げると、桜は躊躇いなく狼男の側へとジャンプした。


 呼び止めようと伸ばしかけた俺の手が、虚しく空を切る。


 もう、自分にはどうすることもできない。

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