桜の記憶

 おそらく、この近くで起きた猟奇殺人の犯人も奴の仕業だったのだろう。


(だけど……)


 ここまでの推測が間違いないとして、いったい今日までどこに潜んでいたのだろうか。


 それに、今まで大人しくしていたやつが何故このタイミングで行動を起こし始めたのか。


 そんな疑問が頭によぎった。


 しかし、それを桜に訊ねるより先に狼男の姿が視界から消えた。


「――っ?」


 タッという軽い音だけを残し消え失せた相手に、俺は驚く以外の反応ができない。


 どこに消えたのか。


 慌てて探そうと首を巡らしかけると、突然桜が俺の身体を抱えて横に跳んだ。


 直後、すぐ近くで固い板を叩き割るような大きな音が響く。


「おわぁ!?」


 その音が聞こえた方角を見て、堪らず悲鳴を上げる。


 またしても自分たちが立っていた場所に、狼男の姿が移動している。


 おそらく、地面から一気に跳躍しそのまま真上から落下してきていたのだろう。


 落下の際に降り下ろしたのであろう男の拳が、屋根板を大きく破壊しめり込んでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る