桜の記憶

 今の夜空を見上げていた間に警察全員の記憶を操ったということなのだろうが、あまりにも拍子抜けしてしまうくらいに呆気ない。


(昼休みの屋上でもそうだったけど――)


 前触れのない桜の能力。


 その気になれば、敵の戦意を消失させることなどいとも簡単にできてしまう力。


 俺を守ると言ったあのあっさりとした台詞も、これならば納得ができる。


(前にも思ったけど、不意でも突かれない限りはマジで無敵に近いな)


 夜風をうけて仄かに揺れる彼女の黒髪を見つめながら、これなら案外何とかなるんじゃないかと、そんな安易な考えが頭に浮かぶのを自覚した。


 もっとも、この考えが“ある意味”正しいことに、この後俺はすぐ気づかされる羽目になるわけだが――。

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