桜の記憶

 ここから確認できるだけでも八人。


 雰囲気からしてこれで全部というのは考え難い。


「……どうすんだよ。あれ全員、記憶いじって追い出すつもりか?」


 後ろから一緒に様子を窺っていた桜へ、俺は首を向けた。


「うん、それが一番手っ取り早いかもね」


 あっさりと答えて、桜はついっと上空を見上げた。


 まるで何かを考えるかのように黙り込み、暫くの間漆黒の夜空へ睨むような視線を送り続ける。


 その間、約二十秒と言ったところか。


 意図が掴めず黙ってその様子を眺めていると、桜は何事もなかったかのように顔を戻し広場の先を指差した。


「よし、じゃあ行こっか」


「は? え……?」


 広場へ視線を戻す。


 いったいどういう作用を施したのか、警察たちが次々とパトカーへ乗り込み俺たちのいる場所とは逆の方向へ走り去っていく。


 たった今まで聞こえていた声や人の気配が、あっという間に消え失せてしまう。


 ほんの一瞬にして駅前から誰もいなくなり、唖然とする俺の横を悠然とした足取りで桜が通り過ぎて行った。

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