桜の記憶
「それならなおさら行かなきゃ駄目じゃない」
「は?」
「だってそうでしょ? もしその犯人が雄治の言うように異世界から来た存在だとしたなら、あたしの記憶を元に戻す方法やきっかけを知ってるかもしれないのよ?」
「いやまぁ、それはそうなんだけどさ。どんな奴が待ち構えてるかわかんねーし、もっと慎重に計画を立てる必要があるんじゃねぇかってことを言いたいんだよ」
汗でじっとりとする首筋を擦って、不快感をごまかす。
桜の言い分はわかるし、そういう返事が返ってくることもあり得るだろうとほんの少しは予想していた。
してはいたが、だからと言ってそれにあっさりと同意するなんてこと、普通の人間である俺にできるわけがない。
「相手の正体もわからないのに、計画なんて立てようがないじゃない。雄治は男の子なんだから、あんまりビクビクしてるとカッコ悪いよ?」
「……」
あくまでもまともに取り合うつもりはないらしい。
桜はからかうように言ってこちらの顔を覗き込むと、にこりと微笑んでみせてきた。
「……いざとなったら、俺は一人でも逃げるからな」
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