桜の記憶

「雄くんたちはもう買い物終わり?」


「ああ、有紀は?」


「うん、買うのは見つけたからお金払ってくる」


 言いながら、有紀は手にした参考書を掲げてみせた。


 英語と世界史。どちらも俺の専門外教科だ。


「二冊?」


 苦渋を浮かべる俺の横で、桜は絵画でも眺めるような仕種で有紀が持つ参考書に顔を近づけた。


「そうだよ。結構わかりやすい解説とか載ってたから、これが良いかなって思って」


「ふ~ん」


 弾んだ声で有紀が答えると、桜は何故か勝ち誇ったように口の端をつり上げる。


「甘いわね。あたしは八冊買ったわよ」


 ずいっと、手に持つ袋を有紀の眼前にかざす桜。


「んなことで競うなよ」


 くだらないやり取りをする俺と桜を交互に見ながら、有紀があははと笑う。


「入り口で待ってるから、早く会計済ましてこいよ」


 用が済んだのなら、長居をしていても仕方がない。


「うん」


 有紀が小走りでレジへ行くのを確認し、俺は桜と一緒に店の入り口へ移動する。


 とはいえ、わざわざクーラーの恩恵がない外にでる必要まではないので、あくまでも入り口だ。

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